東京の銭湯で今、密かに起きている「革命」 銭湯建築家、今井健太郎が語る銭湯の強み
当初、自らプレゼンに奔走していたころは、よくオーナーさんから、リニューアルしたってどうせすぐ飽きられるだろう、と言われました。しかし、従来の銭湯業界の体質として、施工業者が自前で設計したり、ちゃんとした設計者をいれないということが普通という現状があり、コーディネート的な概念が無いように私からは見えたんですね。まずは、そこからきちんとしていけば全然違うのに、という考えが、活動の根本にあります」。
クリアすべき課題は、後継者問題
話の端々で今井は、銭湯が「見向きもされなかった」一昔前と現在を比べていた。注目が集まってきていると実感する理由は何か。
「個人的な実感では、ファッション雑誌やライフスタイル誌からの取材が増えたことです。銭湯全体の話では、銭湯で行われるイベントが増えたことがあります。私がペンキ絵のライブペイントを持ち込みで企画し始めたころは、銭湯でイベントをやっている人は私とあとひとりいるかどうか、という状態でした。しかし今は、そうしたイベントが数えきれないほどある。そうなったきっかけというのは分からないのですが、社会的な認知度が上がって、話題に取り上げてもらうことが増えたということは、確実に言えることです」。
追い風を感じる中で、今井が改めて考える銭湯の意義と、今後クリアすべき課題とは。
「かつては衛生機能として否応無しに行く場所だったわけですが、今はわざわざ行く場所。これほど身近に、心も体も開放できる空間というのはなかなか無い、と感じる人が行く場所なのではないでしょうか。460円という価格も、居酒屋でビール1杯飲むのと同じなわけで、コストパフォーマンスが高い。そして、地域のコミュニケーションの場として機能している面もいまだにある。そこで知り合いに会える高齢者にとっても、飲み会帰りの学生にとっても、貴重な空間です。
銭湯文化を未来に繋いでいくためには、単に奇抜なものや流行のデザインを追い求めるのではなく、銭湯が有する独特のディテールや機能を残しつつ、新しさや快適さをエッセンスとして加える。『懐かしくも新しい空間』でないといけないのです。
クリアすべき課題は、後継者問題でしょう。銭湯の改修は配管や設備などに膨大なお金がかかり、今も昔も数千万円から億に近い金額がかかってきます。ただ、東京都の場合は補助金が出るので、金額面の負担はそれなりにフォローされています。
それよりも改修ができるかできないかを左右するのは、返済までの10年、20年と店を続けてくれる跡継ぎがいるかどうか。そのためには、後継者を育てる機関が必要なのではないかと考えています。銭湯の経営には一定の知識と管理の仕方、接客技術などのノウハウが必要です。資格こそ必要ないものの、それらを教える場所が無い。世襲が依然基本システムとしてあるなかで、人材育成システムをつくることは、窓口を用意してあげることになりますから」
(執筆者: 三木邦洋)
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