泥沼の米金融危機、血税投入でも不透明な米住宅公社と大手銀行の命運
「われわれのビジネスは、アメリカン・ドリームの実現」--。そんな宣伝文句で自らの存在感を米国民に誇示していたファニーメイと、弟分のフレディマック。この二つの住宅公社に血税が投入されるなどという悪夢のような事態を、どれだけ多くの国民が想像していただろうか。
7月13日にポールソン財務長官が支援策を表明してから2週間余、財務省による必要時の公的資金注入など住宅公社2社の支援策を含む住宅関連救済法案がスピード成立した。新法には、債務者の低利借り換えを政府が保証して住宅差し押さえを防ぐ総額3000億ドルの対策なども含まれており、金融不安の根源でもある住宅不況を和らげる一定の効果が期待されている。
しかし、新法成立が金融不安を一掃すると考える専門家はなきに等しい。逆に、住宅公社をたとえ国有化しても、公社の損失が大幅に膨らみ、ただでさえ史上最悪の財政赤字が急拡大し、さらなるドル売りを招くのではとの危惧さえ生まれている。
「暗黙の保証」から「明白な保証」へ
全世界が注目するこの住宅公社の危機は今後どのような展開をたどるのか。まずは2社の実像と危機に至った経緯を整理しよう。
ファニーメイは大恐慌時のニューディール政策の一環として1938年に設立された。一方のフレディマックは70年、戦後の住宅ローンを担ってきたS&L(貯蓄貸付組合)が金融自由化の波に押されて危機に直面した際に誕生。共に、住宅ローン市場に流動性を供給するという設立法上の役割を担う。70年と88年にそれぞれ株式を上場し、完全民営化しているが、財務省による緊急融資枠や州・地方税の免除などの特権を有することから政府支援機関(GSE)とも呼ばれる。
2社は、自ら社債を発行して民間金融機関から住宅ローンや住宅ローン担保証券(MBS)を買い取り、保有するほか、信託の形で民間金融機関の住宅ローンを証券化し、投資家に販売されたそのMBSの元利払いを保証する業務を行っている。買い取り・保有(1・5兆ドル)とMBS保証(3・7兆ドル)を合わせると5・2兆ドル(今年5月末現在)に及び、全米の個人向け住宅ローン残高10・5兆ドルのほぼ半分の信用リスクを負担している。まさに米住宅金融の中核である。サブプライム問題で民間のMBS市場が壊滅状態にある今、米国の住宅市場は公社なしには支えられないのが実情だ。
また、2社が発行した社債と保証するMBSのうち、1・5兆ドル強が海外投資家によって保有されている。投資家はみな、GSEの米連邦政府との特殊な関係から「暗黙の政府保証」があると信じている。万一デフォルトを起こせば、ドルの世界的信認が失墜するのは必定。米国政府にとっては国内的にも国際的にも「too big to fail」、大きすぎて潰せないのだ。
なぜ危機に立ち至ったのか。
両社が上場するニューヨーク株式市場では、住宅不況が深刻化した昨年秋から経営不安説が流れ、株価が下落を始めていた。今年7月に入り経営危機説は一気に加速する。7日、大手証券リーマン・ブラザーズが、会計基準(FAS140号)の改正でGSEが750億ドルの追加資本が必要になる可能性を指摘するリポートを公表し、2社の株価は急落。翌日、米連邦住宅公社監督局(OFHEO)が「会計方針の見直しはGSEの資本基準見直しには直結しない」と反論し、いったん株価は反発するが、10日にはプール前セントルイス連銀総裁が「GSEは実質的に破綻」と発言。昨年秋には60ドル以上あった株価が1ケタへと落ち込んだ。
そして13日の日曜日、フレディマックの社債入札を翌日に控え、ポールソン財務長官が急きょ会見を開き、公的資金を含む支援策発表となった。当局としては、「暗黙の保証」を「明白な保証」に変えることによって市場の動揺を抑えるよりほか手はなかった。実際、社債市場では入札も好調に終わり、安心感が高まった。ただ、株式市場では公的資金を投入した場合の減資など株主責任追及に懸念が高まり、株価が低迷。いまだに10ドル前後をさまよっている。