「一流の中の一流」と一般人のメンタルの差 香川真司が逆境から何度でも甦る理由

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中学時代の同級生が言う。

「あの頃の真司はめちゃくちゃうまかったけど、特別かと言われるとそうではなかった。でも、後にアイツがすごい選手になったときは、『やっぱりな』と思いました。だって、アイツ、ずっと“上”ばかり見ていたから」

やはり香川も、「上には上」という言葉のとらえ方が違うのだ。

いつか必ず、追い抜いてやる

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香川は2010年にドイツ・ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントに移籍し、翌年にはリーグ制覇の立役者として一躍、世界的な脚光を浴びた。2012年にはサッカー選手なら誰もがうらやむ世界的なビッグクラブ、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれ、サッカー界における“トップ中のトップ”の仲間入りを果たした。日本代表では10番を背負い、名実ともにエースとして大きな期待を寄せられている。

それでも、香川の心が達成感で満たされることはない。

「世界には、とんでもない才能を持った選手がたくさんいるんですよ。でも、自分よりすごい選手がいたら『いつか必ず追い抜いてやる』と今でも思える。だからこそサッカー選手を続けられているんでしょうね。自分よりすごいヤツに対して、勝ちたいと思えるかどうか。いつか追い抜いてやると思えるかどうか。子どもの頃からずっと、僕はそればかり考えてきましたから」

5月に閉幕した2016-17シーズン、香川は所属クラブのボルシア・ドルトムントで満足な出場機会を得られず、苦しい時間を過ごした。日本代表でも思うような結果を残せず、表情はどこか曇りがちだった。

シーズン後半はコンディションを上げて本来のパフォーマンスを取り戻したが、6月8日に日本代表の一員として臨んだ親善試合シリア戦で肩を脱臼するアクシデントに見舞われ、W杯アジア予選・イラク戦の欠場を余儀なくされた。

思うようにいかないもどかしさは、誰よりも本人が感じているだろう。しかし「いつか必ず追い抜いてやる」というモチベーションが消えないかぎり、香川はまた、きっと輝く。

「2014年ブラジルW杯の悔しさは、味わった人間にしかわからない部分もあると思うんです。だから次の大会で結果を残して、あの悔しさを晴らしたい。プレッシャーはハンパじゃありません。でも、そこで勝って日本代表の一員として輝きたい」

「上には上」がいる。ただしそれは、「超えられない壁」ではない。その言葉にただ純粋に自分と向き合う “トップ・オブ・トップ”のメンタリティを感じられたからこそ、日本代表の10番が、もう一度派手に輝くことを確信している。

細江 克弥 スポーツライター

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ほそえ かつや / Katsuya Hosoe

1979年6月2日、神奈川県生まれ。『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て2009年に独立。サッカーライター、編集者として精力的に活動している。近年は欧州サッカー解説などでも活躍。

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