東芝再生を遠ざける「政府主導」の日米韓連合 運営パートナーのWDは憤りを隠さない

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ハイニックスは次世代メモリの開発で提携関係にあり、気心は知れている。とはいえ、2014年にはメモリ技術を不正に取得した問題で東芝が提訴し、ハイニックスが2.78億ドルを支払うことで和解した過去がある。

「われわれはダメで、ハイニックスならいいのか」とWD関係者は憤りを隠さない。東芝メモリを売却する場合、WDは過半の出資を主張していたが、6月中旬には大きく譲歩。株式での出資をあきらめ、社債による資金提供での参加を提案した。

「転換社債でなく社債なので、今回のハイニックスの参加とほぼ同じスキームだった。それに対する返答がないまま、いきなりこれだ」(WD関係者)

綱川社長は日米韓連合に決めた理由を「企業価値の評価額だけでなく、従業員の雇用とか工場の維持、技術流出、健全な事業活動の継続拡大という総合的な要素で決めた」と説明した。

技術流出や独禁法抵触については「ハイニックスはコンソーシアムの融資であり、議決権がなく経営に関与しない(ために心配ない)」であり、政府の意向に対する忖度ではという質問には、「いろいろな関係者を考慮しながら決めた。東芝主体の判断」と答えた。

巨額の追加投資に耐えられるか

最先端の半導体技術が国にとって重要なのは確かだ。

問題は、革新機構が主導する体制で毎年3000億〜4000億円の設備投資を必要とするメモリ事業で、韓国のサムスン電子と戦っていけるのか。

「投資判断など経営は東芝メモリ幹部が引き続き執行するので、安定した経営ができる」と綱川社長は自信を示す。だが、メモリ市況が絶好調の今はともかく、市況が下落したときも機動的な資金調達が出来るのか。東芝メモリの経営陣だけでなく、果敢な投資を行うという、革新機構の覚悟が問われてくる。

革新機構はメモリ会社の数年内の上場を目指す。できない場合、2025年までに保有株を処分する必要がある。ベインも投資ファンドゆえイグジットが目的だ。融資で参加するハイニックスが最終的に主導権を握る可能性もある。

日の丸主導の買収が、現時点での政府のメンツを立てただけとなるなら最悪だ。技術流出を防げず、最高値の先に売らせないという意味で東芝救済にさえなっていないのだから。

再生の切り札であるメモリ売却で優先交渉先を決めても、霧が晴れない。東芝は漂流したままだ。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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