「公園のブルトレ」修復に取り組む社長の熱意 5年前に自費で修復、今後の活動へ賛同募る

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2017年の姿。塗装に傷みが見える(高橋さん提供)

客車は2012年の修復から5年が経過し、塗装に再び傷みも見えてきた。床下にはさびて部品が劣化している部分もあり、なるべく早い段階での修理が必要となっている。そこで開始したのが、クラウドファンディングによる修復プロジェクトだった。多くの賛同者から資金を募る形としたことについて、高橋さんは「20系は名車といわれる存在。この貴重な車両をみんなも何とかしたいと思わないか?という問いかけだった」と語る。

現役時代の20系客車。原型では窓の上にもラインが1本通っていた(写真:K3 / PIXTA)

今回予定していたのは、2012年の修復時に手が回らなかった部分や再塗装などだ。床下の劣化した部分を修理し、前回は交換できなかった窓枠のゴムもすべて取り替える。さらに、塗装も青い車体にクリーム色の帯が2本の現役末期の姿から、窓上にもう1本の帯を入れた3本とし、原型に近い姿を再現する予定だった。

結果的にクラウドファンディングは目標金額の555万円に到達せず、プロジェクトは成立しなかった。だが、高橋さんは次の手段を計画している。一つは直接寄付を募ること、そしてもう一つは、クラウドファンディングのお礼の品として企画した、国鉄車両の青いシート生地のクッションや車内の匂いを再現したフレグランスなどのグッズ類を販売することだ。売上から一定の額を修復のために設置している委員会に寄付するという形で、継続的に修繕費用を賄える形をつくりたいという。

貴重な遺産を今後も保存するために

高橋さんが20系客車の修復活動を通じて尊敬の対象になったという旧国鉄総裁・十河氏の座右の銘は、中国語で「あきらめるのはまだ早い、方法はある」という意味の「有法子」だったという。「20系や新幹線などを生んだ島技師長や十河総裁は、さまざまな困難を乗り越えてあきらめずに偉業を達成した。自分もささやかでもそこに追いつきたい」と高橋さんは言う。

すでに現役を終え、動くことはない貝塚公園のナハネフ22形客車。だが、この客車に魅せられた1人の鉄道ファンが始めた活動はさまざまな人の心を動かし、かつての荒れた状態から現役時を思わせる姿にまでよみがえった。元東区長の副島さんも個人でクラウドファンディングに参加したといい、「ブルートレインには青春時代の記憶がある。自分たちの世代(60代)なら思い出のある人は多いのでは。今後の活動を応援していきたい」と語る。

クラウドファンディングを企画した際の高橋さんの思いは「(鉄道ファンやブルートレインに思い出のある)みんなもこの車両を何とかしたいと思わないか?」という問いだった。貴重な遺産を次世代に伝えるために、一人ひとりにできることは何か。貝塚公園の20系客車は問いかけている。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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