貧困シングル母「善意の若者」に浴びせた洗礼 グローバル都市NYの「貧困のリアル」

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「クソが。やっと話が進められるよ」とシルヴィア。「で、なにが知りたいの?」。強烈にママの口ぶりになっている。

カーターはヘリンボーンのジャケットをピシッと引っ張った。服と一緒に威厳も正そうとしたんだろう。「そうですねぇ、いくらなら気持ちよく仕事に行く気になりますか?」。

「どういうこと、『気持ちよく』って」

「必要なものが手に入るってことです。子どもの世話に食べ物に交通費に家賃とか」

「運が良かったよ。障害があるなんてね」

シルヴィアが考えているところにベッツィが割り込んだ。「野球場の入場者の数ぐらいでどうでしょう。年に5万ドルなんかではどうです?」。

シルヴィアが目をむいた。「年に5万ドル?」。

ベッツィがひるむ。「いや、その、7万5000ドルでは?」。

シルヴィアが天井に目をやる。「神様、やっとあたしのお祈りを聞いてくれたんですね!」。滴るぐらい嫌味たっぷりだ。

シルヴィアはまた学生たちのほうを向いた。「あんたら子どもたちの目には、あたしがどれぐらいで暮らしてるように見えんのかね? っていうか、周りを見てごらんよ。さて、んじゃ当ててみなよ。あたしはどれぐらいで暮らしてると思う?」。

カーターが辺りを見回した。「年に3万5000ドルとか?」。

「年に3万5000ドルとか」シルヴィアが繰り返す。「年に3万5000ドルとかってか! そんなおカネ、どっからもらえるっちゅーの?」。

「連邦政府からです」とマイケル。「だからこそぼくたち民間がなんとかして……」。

でもシルヴィアは彼を遮った。お遊びは終わりだ、もう面白くなくなった。彼女の声は冷たく、語り口は淡々とした調子に変わった。

「生活保護で毎月いくらもらってると思う?」とシルヴィアが尋ねる。誰も答えない。「800ドルぐらいだよ。それで服と地下鉄と学校と食べ物と洗剤と電話とテレビを賄ってる。というか、足しにしてる。食糧配給券でいくらもらってると思う?」。

やっぱり誰もなにも言わない。

「月に180ドルだよ」

「それだけ?」とマイケル。驚いている。

「それだけ。それから、身体の障がいでももらってる。脚が悪いんでね。それで家賃払ってる。あたしゃとっても運がよかったよ。障がいがあるなんてね。そういう運にも恵まれない人はたくさんいるんだよ」

ベッツィはただただショックを受けたようだった。「月に980ドルで生きてるってことですか? ニューヨークで? そんなおカネで人って生きられるんですか? っていうか、ああ神様」。

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