貧困シングル母「善意の若者」に浴びせた洗礼 グローバル都市NYの「貧困のリアル」
「家に男」ルールというのは法律の条文で(1968年に最高裁で憲法に反すると判決が出ている)、家に男が住んでいたら女の人は生活保護を受けられなくなる。性差別だわ有害だわ家庭を壊すわ、そのうえ人種差別だ。
ほかの種類の人たち(たとえば白人で農業をしてるお家とか)がもらう、同じような種類の政府の援助には、身持ちがどうのとか受ける人がなにをしちゃいけないとか、そんな条件はついてない。でも少数民族の人たちには、屈辱的にも上から目線の決まりが山ほど投げつけられるのだ。
彼女の語りが落ち着いてきたところで、ぼくも話を切り出した。マイケルとベッツィとカーターには、具体的に知りたいことがあって、それは、人が生活保護から抜け出して働けるようにするのを手助けしようと思ったら、自分たちはおカネをどう遣うのがいいかってことだ。
「そうなんです」とベッツィ。心に届きそうな熱意がこもっている。「父さんが弟とあたしに、人が仕事に就けるように助けなさいって言うんです。だって、突き詰めると、額に汗してこそ、人はほんとに幸せになれるんですから」。
生活保護から抜け出す手助けをしたい若者達
シルヴィアがいぶかしげな目でベッツィをにらんだ。シルヴィアの視線がベッツィのあちこちに突き刺さる。シャネルのバッグ。バーバリーの値の張るコートはチョコレート色のヴェルヴェットだ。「ほんと? で、あんたはなにしてんの? どんな額に汗してんのってことだけどさ」。
「はい、今は父さんの資産の運用を手伝ってます」とベッツィが答える。
シルヴィアはメンソールのタバコの箱とライターを取り出した。ライターには自分で編んだカヴァーがついている。彼女はそのタバコとライターを、なんだかこれからの戦いのために武器を整えるみたいな調子できちんとそろえて置いた。
どう見ても彼女、楽しんでる。「いやいやいや」。そう言うシルヴィアの声はどんどん鋭くなる。「あんたはなにしてんのって言ってんの」。
「人が向上するのを後押しする方法がうまくいくかどうか調べるんです。あたしの家のおカネを使えば、この街の貧困を大きく変えられると思うんです。実際、市長は熱心に……」
「だからあんたなにしてんの? なんか作ってんの? なんか売ってんの? お客になんかしてんの? わかる? あんたの仕事はなに?」
カーターが割って入る。「簡単なことです。ほんとに。あなたを助けるのがいいかどうか検討するんです。なによりもそれなんです。あなたにおカネを渡すべきか? いくら渡すべきか? あなたに仕事に就いてもらうには、本当はなにが必要なんだろう? あんまりたくさん渡すとほかの人に渡すおカネが減ってしまいます。そういうのをちょっとは考えないといけないんで、ぼくらがあれこれやってるんです」。
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