「フィンテックなのに地銀店舗が増加」のナゾ 来店客は激減、地方銀行はどう生き残るのか

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このように、いまや店舗の効率化は世界的な必然である。しかし、それだけではジリ貧だ。海外の金融機関はM&Aが成長戦略の中核だが、地銀はそうもいかない。

成長のための代表的な手法は統合である。コンコルディアFG、九州FG、めぶきFG、など多くの地銀が持株会社下に旧行をぶら下げる統合を選ぶ。県をまたぐ統合の場合、完全に銀行を合併させて旧行を消滅させてしまうより、持株会社傘下で銀行名を残す方が、地元民の愛着もあり、県の指定金融機関として存続しやすい。

統合の最大の目的は、業務の共通化によるコストシナジーの実現である。しかし、中規模地銀の再編では、向こう数年間のシナジーは数十億円で、貸出1年分の利ザヤ低下で吹き飛ぶレベルだ。持株統合では存続する旧行に重複する機能が残ってしまう。また、意見のすりあわせにいろいろと時間がかかる傾向にある。

業務の広域化で生き残っていけるのか

次の選択肢は、提携戦略である。開始した千葉銀行と武蔵野銀行の資本提携のケースは、これまでのところ、互いの強みや特徴をもう一方が受け入れる形で、比較的良好にプラス効果を生みつつあるようにみえる。

千葉銀行、第四銀行、中国銀行など地銀7行が傘下するTSUBASAプロジェクトでは、システムの共同開発を行うほか、市場・国際業務での連携強化、共同での商品開発など様々な分野で共同化を図る。

また、山口FG、広島銀行など地銀10行等が参加するオールニッポン・アセットマネジメントのように、資産運用などにおける部分提携の例もみられる。

この提携というパターンは、役員同士の意見のすれ違いを埋めるような苦労は少なく、また、離別時のリスクも少ない。しかし、貸出など主力業務には手をつけないことが多いため、シナジー効果は統合に比べて少ない。

これらに対し、自力での広域営業の推進は、単独路線をとる銀行の主力の成長戦略となっている。これなら他行との意見のすりあわせは必要ない。資本提携の場合のようにお互いの拠出する金額などの交渉のわずらわしさもないし、どちらがどう優れているか、などのせめぎあいも不要だ。また、統合の場合、新銀行の貸出額が一社に対して突出して高くならないよう"シェア調整"で減額しなければならないことがあるが、そんな問題も生じない。

しかし、広域営業は、他行との金利競争が最大のリスクだ。今は企業の貸し倒れが極端に少ないが、いつなんどき、貸し倒れコストが急上昇するかわからない。これだけ低金利で貸し出していれば、すぐに取引採算が赤字に転落してしまうだろう。そもそも、他県の企業については地元銀行に比べれば情報が少ないはずだ。にもかかわらず、地元銀行よりも有利な条件を提示してシェアを奪いに行けば、将来に禍根を残しかねない。

広域営業は、環境の厳しい地銀業界では、今のところ批判も少ない有力な成長戦略だ。しかし、隠れたリスクも多そうだ。その舵取り次第で10年後の銀行の勢力図は大きく変わってくるだろう。

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー

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おおつき なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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