世界一のレストラン「ノーマ」が抱える矛盾

1食8万円のメキシコ料理はおかしくないか

『フード&ワイン』誌は、ピニュエラ(アナナスの実)を湯通しして、皮をむき、「そこにイナゴのペーストでラインを引き、コリアンダーの花を散らした」料理を口にした時の興奮が書かれていた。オーストラリアの『グルメトラベラー』誌によれば、タコをマサ(トウモロコシの粉)とトウモロコシで作った皮で巻き、炭火で蒸した料理は絶品だったらしい。

ドライトマトとバッタのサルブーテを作るノーマのスタッフたち(写真:Adriana Zehbrauskas/The New York Times)

ワシントン・ポスト紙は、ハチミツで煮たチレ・パシージャ(唐辛子)にカカオのアイスクリームを詰めたデザートを解説。ロサンゼルス・タイムズ紙は、「バナナの海藻オイルあえ。よく焼いたバナナの皮のペースト添え」の食感を教えてくれた。

もちろん職業柄、こうした記事を読んで、私も「バナナの皮? どんな味なんだろう。私も誰かのコネで行けないかな」と思った。でも、すぐに「そんなのは無意味だ」と思い直した。

ノーマ・メキシコにからめて、現代メキシコ料理のトレンドを記事にするならわかる。でも、純粋にレストラン批評をするとなると、ノーマ・メキシコを取り上げる意味を見いだせない。なにしろ、何カ月も前から予約はいっぱいの期間限定店だ。私の批評を読んで行きたいと思った読者が行ける店ではない。それなのに取り上げるのは、結婚式の批評を書くみたいだ。

もちろん「現実に行ける店」の批評を書くことだけが、私の仕事ではない。レストラン批評家の仕事は、特定の店の料理が「おいしい」「まずい」と判定することだけではない。同じ地域にある他店と比べてレベルはどうか、ほかの店にはないユニークな要素があるか、ユニークといっても理にかなっているかといったことも評価する。

ノーマ・メキシコの料理がユニークなのは、間違いない。でも、それは理にかなったユニークさなのか。

よそ者がつくり、よそ者が消費する高級料理

まず、価格を見てみよう。料理は1コースのみで、料金は1人600ドル。税金とサービス料を入れれば750ドルだ。これは、ノーマがこれまで出してきた期間限定店よりかなり高い。シドニーは飲み物付きで約350ドル、東京は約380ドルだった。しかも、どちらの街でも、これくらいの料金を取るレストランは珍しくない。

トゥルムは違う。マヤ文明の遺跡がある観光地とはいえ、これといった産業のない田舎町だ。最近は高級地区も生まれているが、基本は茅葺き屋根の小屋だらけのジャングルだ。観光業のおかげで、キンタナロー州の雇用率はメキシコで最高だが、住民の平均所得はメキシコで最低の3分の1に入る。住民の約半分は、貧困または極貧状態にある。

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