「古民家」こそがインバウンド観光の目玉だ 「瀬戸内」が取り組む観光客誘致策の舞台裏

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――観光庁が公開する「観光統計」を見ると、瀬戸内エリアの既存の旅館・ホテルの客室稼働率は、現状、必ずしも高いとは言えない。エリアへの流入母数を増やさないかぎり、新しい宿を増やしてもビジネスとしては厳しいのではないかと思うが?

ご指摘のとおり、東京・大阪などの都市部と異なり、瀬戸内の既存の宿泊施設は飽和状態になっているわけではないので、都市部のように旅館・ホテルがいっぱいなので宿を増やすという構造ではない。われわれが企図するのは、既存の旅館・ホテル以外のオルタナティブチョイスを用意することだ。

2~3週間、瀬戸内にバケーションとして滞在する中で、既存の宿泊施設、古民家宿の双方に泊まっていただき、ユニークな日本の文化を体験してもらえればと考えている。また、今後、より増えるであろう日本を訪れるリピーターのニーズにも訴求できると思う。瀬戸内に滞在した外国人旅行者を対象としたわれわれのオンライン調査の結果にも、1棟貸しの宿に泊まりたいというニーズが出てきている。

――バケーションレンタルの魅力のひとつに、ホストや地域の人々との交流があるのではないかと思うが、何か企画されていることはあるか。

体験プログラムの企画について、内子町と協議している。内子町には四国で唯一となった和ろうそくを製造販売する店が残っているほか、お茶の世界で珍重される「菊炭」の産地でもある。たとえばであるが、夜、和ろうそくを灯しながらのお茶会など、いくつかの体験プログラムを用意するつもりだ。

今後についての課題と展望

ホームアウェイ日本支社長の木村奈津子氏(右)と瀬戸内ブランドコーポレーションのマーケティングスペシャリスト木村洋氏(筆者撮影)

今後の展望については、ホームアウェイに関しては、今現在、国内での知名度は低いものの、すでに世界に月間4000万人のサイト訪問者がいることから、まったくゼロからのスタートアップではない。むしろ、今後、国内に、どれだけ登録物件を増やせるかが課題になるのではないか。

また、民泊新法が施行されれば、国内ユーザの民泊利用も加速されることが予想されるので、今後は、国内ユーザ向けのマーケティングにも力を入れていきたいとホームアウェイの木村奈津子日本支社長は話す。

欧米ほど休暇日数が多くない日本のユーザーにとっても、世界中に“シェア別荘”を持つのと同じ感覚で使うことができる同社のサービスは魅力的だと思うし、また、ビジネスホテルの値段が跳ね上がっている都市部においては、ビジネスユースも見込める可能性も、十分あるのではないかと思う。

ただし、既存の民泊仲介サイト同様、ホームアウェイのサービスにおいても、鍵の受け渡しは建物オーナーとユーザーが直接行うことになっている。言語の問題も含め、トラブルが起きないかも、課題になるのではないか。

一方、せとうちDMOの課題は、今現在、海外における「せとうち」の知名度の低さにある。実際、内子町を訪れる全旅行者のうち、インバウンドは全体の1%にすぎない。もちろん、この問題を解決するためのひとつの手段としてホームアウェイと提携したわけだが、今後、やはり日本のほかのエリア、ひいては世界のほかの地域では味わえない「せとうち」ならではの魅力を発信していくことが必要になるだろう。

この点について、木村洋氏は、「今時点で、瀬戸内7県の約30カ所から古民家再生などのオファーを受けている。ひとつのコンセプトに基づいた古民家宿が、瀬戸内海沿岸エリアにまとまってあるということがブランド価値を生むと考える。目指すのは、スペインにある“パラドール”のような宿泊施設網だ。瀬戸内でユニークな文化体験ができる、“せとうち × 古民家”というブランドを海外市場に浸透させることを、ホームアウェイとともに取り組んでいきたい」と話す。

森川 天喜 旅行・鉄道作家、ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など

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