「企業年金未払い」その真相を追う

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膨大な未受給者を発生させた4つの要因

 連合会から年金を受け取るためには、本人が連合会に「裁定請求書」を送り、支給を決定してもらう必要がある。連合会では59歳11カ月の時点で本人宛てに裁定請求を促す通知を送っているが、2割近くが住所不明で返ってくる。連合会では、基金から年金記録や資産の移換を受けた当時の住所に通知を送っているが、住所が変わったものの、連合会に届け出ないことが多いためだ。
 連合会では59歳11カ月時の送付の後、本人が国の年金(厚生年金)をもらい始めた時点で住所情報の提供を社保庁から受けて、再度、通知書を送付し、給付請求を促している。それでも請求しない人には、社保庁から入手した住所に65歳時点でもう一度通知を送っている。そうした3回にわたる取り組みを経たものの請求をしてこない人(66歳以上)が約4割を占めているという。

 膨大な数の未受給者が存在する理由はいくつもある。

 まず第1に、住所の把握が困難なことがある。連合会は1998年と06年に、最新の住所情報の提供を厚労省に要望している。それを基に59歳11カ月時に、国が把握している住所に通知書を送ることを検討してきたが、「個人情報保護の観点などから、現時点では提供していない」(厚労省企業年金国民年金基金課の簑原哲弘課長補佐)。

 第2には、連合会年金の役割と機能がよく知られておらず、加入者自身が何をすればいいか理解していない場合が少なくないことがある。社会保険労務士でジャーナリストの稲毛由佳氏は次のように指摘する。

 「国の年金である厚生年金と、企業年金である厚生年金基金が別物であることを多くの人が理解していない。また、早い時期に転職すると年金資産が連合会に移換されることを知らない人も多い。加入期間が短期間なので年金をもらえないと勘違いしている人も珍しくない」

 そして第3には、一般的に1件当たりが少額(年間の年金受取額は平均4万円弱、年金額1万円未満が6割強)であることから、連合会自身が積極的に周知や問題解決を図ってこなかったことが挙げられる。

 企業年金の実務に詳しい年金コンサルタントの河村健吉氏は、「60歳以上の受給資格者のうち3割が未受給というのでは、制度が機能していないに等しい。少額であることから、事実上受給をあきらめさせる仕組みになってしまっている」と指摘する。

 第4点として挙げられるのが、厚労省と連合会の責任意識の希薄さだ。連合会は、前理事長まで歴代トップを厚労省から受け入れてきたが、彼らが積極的に問題解決を図ろうとした形跡はない。連合会は厚生年金の報酬比例年金の一部を代行している(上図)から、未請求者は国の年金の一部を受け取っていないことになる。その点でも、厚労省は監督責任を果たしてこなかった。

 いずれにしても、早急に実効性のある対策が必要だ。国の年金を請求する際、社会保険事務所は請求する人の履歴を打ち出してくれる。基金に加入した期間があれば、当然、その期間が表示されるから、このときに丁寧に請求方法を教えてあげれば未請求はかなり防ぐことができる。ただし、社保事務所は基金の加入期間にかかる請求を連合会にすべきか基金にすべきかを判断できないという問題を解決する必要がある。

 社保庁は公的年金の受給者に毎年6月に「振込通知書」を送っている。「住所情報の提供とは別に、その文書を活用して請求を促す方法もある」と前出の稲毛氏は指摘する。

 年金不信をこれ以上拡大させないためにも、英知の結集が必要だ。

(書き手:岡田広行 撮影:風間仁一郎)

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