「JR北海道問題」に抜け落ちている重要な論点 北海道の将来に対する「国の考え」が見えない
さらに公表された経費の中では、人件費に次いで大きな支出科目である修繕費などもその内容を検証する必要がある。支出の中にはグループ企業への発注もある。グループ企業の中には優良企業も多数ある。「母屋で親がおかゆをすすっているときに離れで子供たちがすき焼きを食べている」といったことがないのかどうかの検証も必要である。つまり、JR北海道の経営体制の改革、決算内容の精査は不可欠である。増収を図る努力、コスト削減の余地は大きい。
JR北海道は札幌近郊などで運行経費を賄える線区はあるものの、営業損益段階では全線赤字である。しかし、赤字は北海道に限ったことではない。
巨額な揮発油税などを背景に全国隅々まで建設され維持される道路と移動自由度の高い自動車が普及した今日、ほかのJR各社でも新幹線や大都市圏の一部を除いて大半が赤字である。大手民鉄においても鉄道経営は厳しい。地方民鉄や三セク鉄道も特殊要因のある線区以外は赤字で自治体負担などによる上下分離などで運行を維持している。
スイスでは鉄道と道路は同じ
モータリゼーションが進んだ先進国でも同様である。面積で北海道の半分のスイスでは、面積当たりの道路延長や人口当たりの自動車保有割合も北海道をはるかに上回っているが、北海道の2倍以上5000キロメートルを超える鉄道網が維持されている。つまり4倍の密度の鉄道が存在するのだ。しかも幹線はもとよりローカル線でも早朝から深夜まで毎時1本、同じ時分で運行するフリークエントサービスを行っている路線も多い。
スイス国鉄の赤字額は年間3000億円を超えるが政府が穴埋めしている。つまり鉄道は道路と同じ扱いなのだ。その背景には公共交通維持についての国民合意があるといわれる。わが国の場合は、先進国の中ではモータリゼーションが遅れて人口稠密(ちゅうみつ)な国土での鉄道のシェアが高い時代が長く続いた。鉄道は黒字であるべきだという認識が刷り込まれ、公共交通を維持するうえでの鉄道赤字に理解が弱い。先進国標準の公共交通としての鉄道赤字を考える時期にきている。
今回の公表による維持困難な線区のうち輸送密度200人未満についてはバス転換が言われているが、本州以南と北海道では地域性が著しく異なる、机上の計算による数値だけでバス転換を進めることには大きな問題がある。
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