「JR北海道問題」に抜け落ちている重要な論点 北海道の将来に対する「国の考え」が見えない

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また民主党政権下で2200億円の経営安定化特別債券(期間20年、利率2.5%)を追加授与されている。政府はこの基金を高利で借入、あるいはこの債券に利息を払うなどして事実上の補助金を投入してJR北海道の収支を償ってきた。そもそもJR北海道は、民営化されたとはいえ、その株式を事実上全額政府が保有する特殊法人である。とても民間企業とは言いにくい。

北海道という特殊性を考慮する必要がある(写真:digi009 / PIXTA)

このような位置づけにまったく触れずに、“政府機関”であることを忘れたかのように民間企業であることを強調して赤字を理由に路線を放棄しようとするJR北海道、財源も権限も限られているにもかかわらず解決を押し付けられて迷走する北海道庁、なすすべもなく戸惑う地方小自治体。事態は混乱を極めている。しかも知見や知恵を発揮しないまま十分な議論なしに拙速で片付けようとする機運も見られる。このままでは決着したとしても、なし崩しの、目先の判断に終わってしまい、のちに大きな禍根を残すように思えてならない。

北海道新幹線が新函館北斗まで開業して1年目で大きな効果が見え始めている。札幌延伸時には革新的変化を及ぼす可能性があり、その開業により地方交通線の役割や位置づけを変えることも考えられる。現状で安易な決断をするべきではない。

国が株主なので「民間企業」とは言いにくい

次に公表した内容を読むと、JR北海道としての将来ビジョンが感じられない。今後の経営目標や経営手法、路線維持の工夫や営業努力の表明が見られないのだ。要は13線区1237キロメートルについて、①利用客が減少したことによる赤字拡大や②老朽構造物の維持費用負担などから、バス転換や地元負担による上下分離などを求めているにすぎないのだ。維持困難と決めた線区において、発足以来これまで30年間、利便性を高める工夫や、利用者を増やす改善にどのような努力をしてきたのかの説明がなく、赤字の言い訳に終始している。

また文中に「民間企業として担えるレベルを超えた……」とあるが、前述のように国が株主であるJR北海道は民間企業とは言いにくい。JR北海道発足の1987年度から営業損益段階では30年間連続して赤字である。赤字は今に始まったことではない。

一方、民間企業を強調する割には、役職員の給与・賞与等は公務員に準じている。北海道の一般的な企業の給与水準に比べれば優遇されている。上下分離の事例にされている地方の第三セクター鉄道の公募社長の年収は500万~700万円とも聞く。それに引き換えJR北海道の人件費総額を社員数で割って算出した1人当たりの平均人件費は700万円だ。

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