それでも銀行におカネを預けておきますか? 預金が「紙くず」同然になる日の現実味

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銀行も手をこまぬいているわけではない。収益を上げるため、近年、消費者ローンやアパート・マンションローンなど利ザヤの厚い貸し出しや外債投資を拡大した。ところが、これらについては当局などの警戒感が高まっており、大幅には伸ばしにくくなっている。

今月、三菱UFJフィナンシャルグループは、欧州でユーロ建ての法人定期預金にマイナス金利を適用すると発表した。邦銀では初めてとなる。これは海外の法人預金の話だ。まだまだ国内個人預金には影響はないだろう。しかし、仮にマイナス金利が続き、本業が赤字に陥った場合も状況は変わらないだろうか。

例えば1990年代半ば、それまで無料だった土曜日のATM手数料を有料化したり、キャッシュカードの再発行手数料などを相次いで値上げしたことがある 。これらは、一時的に批判を浴びたがその後定着した。2000年代初頭にも一時、口座手数料を課すタイプの預金が大手行から発売されたことがある。

現在ほとんどの邦銀が、持株会社か銀行自身で上場している。株主のためには、本業で赤字を垂れ流し続けるわけにはいかない。長期的には何らかの手数料を検討の俎上に載せる可能性も排除できない。

銀行も個人も、本気で"預金リスク"を考える時

これらのリスクに対して、われわれ預金者はどう対応したらいいのか。

投資の原則はやはり分散である。私のような証券会社の者がいうと、バイアスがかかっていると思われるかもしれない。しかし、実際インフレに対する耐性が高く、比較的シンプルな投資といえばやはり株式になるだろう。

ちなみに、日本は200年以上の社歴を持つ老舗企業の数がダントツに多い。世界の老舗企業の6割が日本企業である 。時価総額の上昇率では米国には及ばないが、長期的にみれば、日本には安定的に長持ちする企業も多い。こうした安定成長企業に長期的な視点で投資するのも一案だ。

逆に銀行側は、個人の投資の受け皿をもっと拡充すべきだ。例えば投信の手数料は、低下傾向にはあるものの、まだ3%超のものもあるなど敷居が高い。

そもそも銀行としては、運用しきれない預金が投信に移ってくれれば、その分資本がいらなくなる。金融危機後に導入されたレバレッジ規制によって、大手行などは預金が増え資産が膨らめば、たとえ国債など低リスクの資産で運用しても、増えた額に対し3%以上の資本が必要となった。

株主への配当を3%と仮定すれば、預金保険料の0.04%も加えた預金のコストは年率0.13%にのぼる(3%×3%+0.04%)。マイナス金利下では無視できないレベルのコストだ。これをセーブできるメリットを考えれば、投信の手数料はもっと安くていい。

マイナス金利導入から1年余り。銀行も利用者も大きく頭を切り替えるべき時に差し掛かっている。

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー

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おおつき なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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