「くさや炎上」、秀逸すぎる円満解決の舞台裏 今は「危」承転結という発想が必要だ

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これに対する答えはひとつしかない。クリエイティブな「攻め」のPRと、危機管理である「守り」のPRの双方を「同時に」備えることだ。それぞれが別の専門性ではなく、融合し一体化したノウハウであることが重要だ。言うほど容易ではないが、そこには大きなチャンスも見いだせる。「ピンチをチャンスに変える」という言葉が示すように、たとえば炎上事案を逆手にとってビジネスにつなげるような戦略だ。これを見事になし遂げたのが、P&Gの消臭剤「ファブリーズ」だ。

炎上と向き合ったP&Gの戦略

話は2016年の11月にさかのぼる。P&Gは、ファブリーズと日本一くさい食べ物「くさや」が対決するというユニークなテレビCMのオンエアを開始した。くさやの置かれた透明ケースの穴から臭いをかいで、「くさい!」と声をあげる女性。そして、置き型ファブリーズとくさやの入ったケースを恐る恐るかいで「臭わない!」。ファブリーズが勝利するという内容だ。これが思いもかけず炎上することになる。「生産者をバカにしている」「やりすぎだ」という声があがりはじめたのだ。

11月24日までに、10件程度の苦情や批判はP&Gのお客様相談室に入ってはいたものの、この時点で「CMを中止する」という判断はなされていなかった。しかし、危機意識を感じていたP&G広報部は、翌25日に出る夕刊紙の報道内容をいち早くWEB版で確認。その内容もふまえ、CMの中止を決断する。CM放映中止に関しては、お客様相談室へ連絡してきていたお客様のうち、連絡先がわかる方へ報告。その過程で、翌日26日の土曜日には、東京で行われた離島イベントに生産者の方が参加することを聞き、本社のある神戸からP&G社員が訪問。出展していたくさやの生産者と直接会って意見交換をした。そのうえで、週明けの11月28日、「配慮に欠けていた」とのお詫び文を公式サイトに掲載。12月より全国でCMの差し替えがはじまった。

見事な危機対応に見えるが、話はここで終わらない。P&Gは2017年4月24日、「千鳥が行く!ルート931の旅。」と題された動画を公開した。なんとこの内容は、くさやの生産地である八丈島を舞台に、くさやをクルマで配達し、車中の臭いをファブリーズが消臭するというもの。「P&Gは炎上に懲りていないのか?」と驚きそうだが、そうではない。今回は正式に八丈島水産加工業協同組合と組んで、ファブリーズとくさや「双方のPR」をめざそうというものだからだ。この背景には、炎上に迅速に対応する過程で、「生産者の多くはむしろCM中止を残念に思っており、くさやのPRの機会が失われることを懸念していた」ことが理解できた経緯がある。ピンチをチャンスに変える「文脈」が発見され、満を持してそれを実行に移したというわけだ。

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