マクロン大統領が抱える「深刻な3つの問題」 フランス大統領選挙の世界史的な意義

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投票は社会の断層をケロイドスコープのように映し出すものだ。それは、フランスの地理、階層、世代、性別にまたがって走っている。これは、このまま新大統領にとって巨大なチャレンジであるのと同時に、その統治能力に対する重い足かせとなろう。

今後、詳細な投票分析がなされるであろうが、ここでは「決選投票翌日の段階」で言えることを整理しておこう。マクロンとルペンの中核的な支持者については、現地の第1回投票の追跡調査からある程度のことが浮かび上がる。

まず、地理的な分断が目立つ。大まかに言えば、フランスの左上から右下に分断線が入り、左(従来から左派が強い西部)をマクロンが、右(右派が優勢な東部)をルペンが取った格好だ。

「2K都市民」がマクロン、「社会的敗者」がルペンへ

ただ、もう少し詳しく見ていくと、マクロンは他の候補と比較すると万遍なく得票している一方、経済的に比較的ダイナミックで、心理的に楽観的なブルターニュなどの地域で強い(27.6%。ルペンは16%)のに対し、ルペンはかつて炭鉱・鉄鋼・繊維産業で栄えたのだが現在は衰退し、取り残されている感を強めているノール=パ・ド・カレー地域などで高い得票(31%。マクロンは19.5%)を記録した。

また、マクロンは20万以上の都市中枢で強く、たとえばパリで約36%を取ったが、ルペンは5%に満たなかった。それに対しルペンは、そうした都市から30~70㎞離れた都市周辺部で24~25%台を記録し、21~22%台のマクロンを上回った(フィガロ紙5月4日)。

これは、おおむね階層の配置と一致する。都市中枢に住めるのは一定の資産を持った人たちだからだ。第1回投票直前の世論調査によると、月1250ユーロ(現在のレートで約15万円、1ユーロ=約123円)以下の収入しかない家庭では、マクロン支持は14%、ルペン支持が32%なのだが、3000ユーロ以上の家庭では、それがそっくりそのまま、それぞれ32%、14%支持とひっくり返る(フィガロ紙4月23日)。

これは、学歴の高低とも呼応しているものと思われる。第1回投票では、大学入学資格を持たぬ層では31%がルペンに投票し、17%しかマクロンに入れなかったのに対して、大学院を含め短大以上の教育を受けた層のうち35%がマクロンに、わずか8%のみがルペンに票を投じた(フィガロ紙5月4日)。同様に職種別でも、経営者の33%がマクロン支持なのに対し、労働者の支持率は12%にとどまり、ルペンのそれは37%に上っていた(フィガロ紙4月23日)。これらは、将来像に深くかかわる。自らの職業が衰退しつつあると感じる層の27%がルペンに、拡大しつつあるとする層の30%がマクロンを支持していた(同)。

なお、性別でも差異がある。ルモンド紙(5月4日)に掲載された大規模調査によると、62%の女性有権者が決選投票でマクロンに投票する意向を示したのに対し、ルペン支持は38%にとどまった。さらに65歳以上の65%、学生の7割、35歳以下の6割がマクロンを支持している。それに対して、ルペンを支持する層は、自身への全国平均支持率を上回った層を挙げると、男性、35~64歳の就業者(ともに44%)、農業者(48%)、独立営業者(45%)などで、マクロンを上回るのは労働者(58%)と失業者(52%)である。

以上で投票者の素顔がおぼろげに見えてくるだろう。マクロンが上層の楽観的な高学歴、高収入の都市民に支持されているのに対して、ルペン支持は停滞感のある地方の低所得者、低学歴者、労働者・失業者(主に男性)に多い。

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