マクロン大統領が抱える「深刻な3つの問題」 フランス大統領選挙の世界史的な意義

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もう1つ注意すべきは、支持の強弱・実質である。マクロンの場合、投票意向を示す6割が初めから決め打ちで、特に彼の個性や政策に引かれたわけでもなく投票するとしており、これはそのほぼ同数(59%)がマリーヌへの愛着ゆえに投票するとしているのと好対照をなしている。

マリーヌは、59%のフランス有権者に好かれておらず、その反マリーヌ感情がマクロンへの消極的支持になっている可能性が高い(ルモンド紙5月4日)。政策別に見ると、5月3日のテレビ討論直接対決でマリーヌが政策音痴なところを露呈する前の数字だが、移民、治安、社会保障、失業でマリーヌ支持が優勢(それぞれ54、48、35、32%)なのに対し、EU、外交、成長、財政などでマクロンが優る(56、42、39、38%)。また、マリーヌは変化をもたらし、国民に近いと見られる一方(それぞれ39、32)、マクロンはマリーヌより外で国を代表するのに適し、議会で多数を得ると見込まれている(46、35%)(仏版ハフィントンポスト、5月7日)。

決選投票におけるマクロンの圧勝には、上記のような中核的支持者とともに、第1回投票におけるアモン票の74%、メランション票の45%など、多くの左派有権者だけでなく、45%のフィヨン票も流れていると思われる。特に、フィヨン支持者の95%がこの5年エリゼ宮の主であった社会党のオランドに不満を抱いていたのだから、そのエリゼ宮で大統領の側近だったマクロンに、約半分が票を投じたのは特筆すべきことである(詳細な決選投票票の分析はこれからだが、フィガロ紙5月7日付記事に見込みが掲載されている)。

他方、ルペン票の評価は時間軸で分かれる。上にも指摘したとおり、フランス国民の一部は熱狂的に彼女を支持しているものの、6割は嫌悪感を抱いている。したがって、第1回投票で4大候補の一角を占めたフィヨンの支持者の27%、メランション支持者の17%しか、ルペンに票を投じなかった(おそらく、この見込みより少なかったと思われる)。

フィヨンが右派で、支持者の中にはイデオロギー的にルペンに近いものも数多くいたはずで、メランションの政策は、反グローバル化、反EUで、ルペンに似通っていたにもかかわらず、支持が伸び悩んだのは、FNのユーロ政策、経済政策への不信に加え、「極右」と位置づけられ、排外主義、保護主義、反自由主義への傾きが残るマリーヌに対して、不信感が拭えないからだと思われる。

例外でなかった「フランスの先進国リスク」

しかし、長い目で見ると、マリーヌ・ルペンが着実に、しかも父の2002年決選投票時からほぼ倍へと、絶対得票数を伸ばしている。表で示したとおり、第1回投票を時系列的に見ても、父の時代から1.5~2倍、マリーヌ自身の先回のスコア(2012年、約642万票)と比較して100万票以上伸ばしている。こうした事実から目を背けることはできない。

この背後には、もちろん、フランス社会経済の構造問題がある。グローバル化の下で、先進国労働者の賃金は停滞し、雇用は不安定化した一方、新興国の労働者と富裕国の富裕層が実質所得を増やしてきた。国内でも、持てるものと持てないもの、不安を抱えるものとそうでないもののあいだの格差が固定し、拡大する。その結果、不満のマグマは先進国で先行きに不安を抱える労働層にたまり、それが民主的な回路を通じて時折爆発する構図だ。2016年に英米で見たとおり、それは反自由主義の色彩を帯びたポピュリズムの形を取る。現代を特徴づけるのは、先進(民主)国リスクなのである。

フランスもその例外ではない。ルペンは、その社会経済的な構造問題の代弁者でもある。この構図が変わらないかぎり、彼女自身なのか、それ以外なのかは別として、誰かがそのマグマを政治的な運動へと転化するだろう。

マクロンは、そうした先進国リスクが世界的に強まる潮流の中、反時代的なメッセージを掲げた。知識人ですら、反自由主義的なポピュリズムに「理解」を示し、時にひそかに迎合する中、逆流をかいくぐって真正面から、保護主義には開放経済を、反グローバル化にはグローバル化の管理を、EUやユーロの解体・脱退論にはその大切さを、移民排斥には包摂を、一枚岩のナショナリズムには多様性を対置してきた。

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