マクロン大統領が抱える「深刻な3つの問題」 フランス大統領選挙の世界史的な意義

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その彼は、フランス政治史の中でも特異な位置を占める。もともと左右のあいだの政治対立が激しい国なのだが、特に第5共和制においては、2回投票制の選挙制度も手伝って、中道の位置取りが非常に難しい中、その中道をうたってきた。

その中道の政治空間は、半ば不可避的に、半ば偶然にぽっかり空いた。上記のグローバル化の下、先進国労働者が「負け組」になることによって生起する政治的両極化の中で、ちょうどアメリカにおいて、左からバーニー・サンダースが、右からトランプが、ヒラリー・クリントンらを挟撃したように、フランスにおける既成政党の社会党や共和派の外側から、左のメランション、右のルペンが伸長した。彼らにつられるように、予備選を通じて、社会党自身も左傾化し、アモンを選出して墓穴を掘った。同様に、共和派も、中道票を取れるはずの穏健派のアラン・ジュペではなく、右傾化したフィヨンを選出した。

通常なら、広範に広がる社会党への幻滅とともに本来なら楽勝しえたフィヨンが、スキャンダルで勢いを失うことまでは予期できなかったろうが、マクロンは、主要政党まで左傾化、右傾化する中で生じた真ん中の政治空間を、結果的にやすやすと埋めたのである。

あえて言えば、マクロンは、1970年代に、若くして、右派の中で穏健集団をつくり、中道路線で大統領になったヴァレリー・ジスカール・デスタンに近いともいえるが、彼の「中道」とは、右派の中の非ゴーリスト(ゴーリストとはシャルル・ド・ゴール大統領の路線をとる者)的な位置取りであった。

さらにいえば、その若きジスカールですら、大統領就任時、マクロンより10ほど年上で、それ以前に大蔵大臣を長く務めるなど、政治経験は豊富であった。他の大統領も、長年政治の荒波でもまれた古参が多く、その中で「大統領的」な威厳や権威を身に付けるのが通例であった。マクロンは、そうしたものとは無縁で、あまりに未知数なまま、大統領となる。

こうして見ると、マクロンの大統領選出は劇的で衝撃的なことに映る。ブレグジット、トランプと続いた世界で、開放経済、自由平等、多様性、移民包摂、EUとグローバル化を正面から弁護し、左右対立の激しい仏政治で中道をうたって大統領職をつかみ取ったのだ。弱冠39歳。1年前は、ほぼ無名。政治経験も浅いのにだ。

彼でなくルペンが選出され、英米と並ぶ伝統的な民主国フランスが、ポピュリズムのだめ押しになった状況を想像してみれば、世界の見え方が変わる選挙だったと言っても過言ではあるまい。

マクロン新大統領が抱える「3つの問題」

この新大統領の問題は「3重」である。彼は、統治機構の動かし方にはそれなりに習熟している。大統領府、内閣、経済産業省を渡り歩いているからだ。国民議会ですら、労働規制を緩和した通称マクロン法を通過させる際、超党派の合意の取り付け方に確信を持ち、それが彼の目指す、既成政党を超えた「中道」路線の原点になっていることからすると、ある程度触感があると思われる。

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