マクロン大統領が抱える「深刻な3つの問題」 フランス大統領選挙の世界史的な意義

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ウイングを広げたFN

第3に、そうした不満と軌を一にするように、FNが伸長したことである。党首のマリーヌ・ルペンは、父ジャン=マリ時代の人種主義や家父長制的思考を退け、同じたぐいの移民排斥の主張をフランスの共和主義の中に位置づけることで、ウイングを広げてきた。たとえば、イスラム教の教えは、男女の平等や表現の自由に合致しないからムスリム移民の受け入れをやめるべきだといった具合である。

また、福祉国家の重視に舵を切り、工場閉鎖や移転などでさびれ、失業率が高止まりしている(特に北フランス)地域や、失業や雇用不安にさいなまされる若者層への浸透が深まった。その結果、父が2002年に成し遂げたのと同様に決戦投票にコマを進めただけでなく、事前予想を下回ったものの、そのときの2倍近い票を集め、押しも押されもせぬ一大勢力として地歩を築いてしまった。

にもかかわらず、結局マクロンが勝利した。彼は、1年前までほぼ無名の政治家だった。弱冠39歳。国立行政学院(ENA)出身の生粋のエリートで、社会党のフランソワ・オランド大統領の補佐官(大統領府副事務総長)や同じく社会党マニュエル・ヴァルス内閣の経済産業デジタル担当相を短期間務めたことがあるが、国会議員はもちろん、地方を含め、1度も民選の公職についたことはない。その人間が、主要政党を素通りして、1年ほど前に組織されたばかりの政治運動体「前進!」を足掛かりに、いまや第5共和制下で8人しかいない大統領となった。

しかも彼は、「開放経済」を明確に志向し、独仏枢軸とヨーロッパ統合の重要性を前面に押し出し、自由平等、多様性、移民包摂といった価値を掲げていた。つまり、マリーヌと正反対の旗を掲げて、そのうえで勝利したのである。

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