トヨタ進出で激化、メキシコの「人材争奪戦」 日系自動車企業が相次ぎ進出、人不足が鮮明
メキシコの自動車生産は2020年に2016年比で4割近く増加し、約490万台にまで拡大するとの予測もある(IHSマークイット調べ)。しかし、米国のトランプ大統領は就任早々、貿易赤字解消に向けて関税を引き上げるべく、NAFTA再交渉の方針を打ち出した。交渉の行方次第では、米国はNAFTAからの脱退も辞さない構え。その場合は米国が通商法に基づき、メキシコからの輸入品に高額の関税をかける最悪のシナリオも想定され、日本勢は戦々恐々としている。
メキシコ車業界で人材争奪戦勃発
一方、トランプリスクよりも目下深刻なものがある。人材の採用難だ。グアナファト州内の正規雇用数は2008年~2015年の7年の間に約4割増えた。全国平均の伸び率は2割超にとどまっており、勢いは目覚ましい。
「1年でワーカー(作業員)の半分近くが入れ替わる。少しでも給料のよいところに行ってしまうからだ」
独立系シート部品メーカー、タチエスでメキシコ工場長を務める佐野道和氏はため息まじりに話す。ホンダのグアナファト州進出に合わせ、同社は2014年に新工場を稼働。「フィット」や「HR-V(日本名ヴェゼル)」向けにシートを供給する。
工場では300人あまりの作業員が働いているが、昨年の離職率は月平均で11%に上った。同社が入居する工業団地や近隣の工業団地への新規進出企業が高い賃金を提示し、その好待遇に惹かれて転職する作業員が後を絶たない。
人材の定着を狙い、同社も対策を取ってきた。他社との競合を避けようと、近隣に工業団地の少ない小さい町村に照準を定め、積極的に人材を引き込んでいる。従業員は9割が会社の手配するバスで通勤するが、今では80キロメートル先の小さな村にまでバスを出している。片道1時間半ほどの距離だ。
ただ通勤ルート上にひとたび新しい工場ができれば、人材流出の可能性は一気に高まる。「トヨタに合わせて系列の部品メーカーも進出してくる。従業員の確保に影響が出るのでは」と佐野工場長は気を揉んでいる。
タチエスと同じ工業団地で3年半前から操業する足回り部品メーカーのヨロズも同じ懸念を持つ。同社も従業員の8割近くがバス通勤で、最も遠くの従業員はバスで1時間ほどかけて通ってくる。その人が住む町にはアイシン精機が2018年の操業開始を目指し、新工場を新しい工業団地内に建設中だ。
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