トヨタ進出で激化、メキシコの「人材争奪戦」 日系自動車企業が相次ぎ進出、人不足が鮮明
「高速道路での長距離通勤を心配する従業員の家族も多い。地元に工場ができれば従業員が流出する可能性もある」とヨロズ現地邦人の菅原義信社長は話す。同社の工場はトヨタの新工場まで車で30分ほどの距離で、カローラ向けにサスペンションなど複数の部品を受注している。
独フォルクスワーゲン(VW)からも新規受注が取れたため、今年2月に建屋を従来の2倍に拡張した。同社として過去最大となる3500トンのプレス機も導入し、「トヨタの生産車種が増えても十分に対応できる」(菅原社長)と意気込むだけに、人材流出は避けたいところだろう。
現地で長く工場を運営してきた日系企業にも悩みがある。17年以上の操業実績がある独立系の内装部品メーカー、河西工業の2016年の作業員の離職率は年間3%で、例年より高かった。それでもグアナファト州における製造業の離職率は月に5~10%のため、同社の離職率は低く抑えられている。
長年操業する工場では上級職が流出
しかし最近目立つのが、作業員ではなく、技術者やマネジメントに携わる従業員の流出だ。現地邦人の木内章詞社長(当時)は「これまでは昇進をオファーされて他社に引き抜かれるケースがあったが、この1年はあからさまに給料面で引き抜かれることが増えた」と困惑気味に話す。
対抗策として、賃金の増額やベネフィット(福利厚生)の拡充も視野に入れているという。河西工業では昨年11月に入社6年目の大卒社員を28歳の若さで工場長に抜擢するなど、能力に見合った処遇に力を入れている。同社でのキャリアアップが見通せるような人材育成施策もさらに充実させ、社員の定着を促したい考えだ。
グアナファト州の人口は約600万人で平均年齢は24歳。若く低廉な労働力が豊富という優位性は今後も揺るがないとみられる。現在の労働者の定着率の低さは自動車産業の急成長の過渡期に生じたひずみともいえる。一方で技術者や経営人材が増えないと、新車や新車向け部品の設計・開発など付加価値の高い機能を伸ばすことはできない。
同州では大学卒のエンジニアが年に5000人輩出されているが、さらに増やすべく、公立私立を問わず多くの大学がコースの充実を急いでいる。2015年には、米テキサス州の私立大学がグアナファト州の私立大学を買収し、新たなキャンパスを開設。トヨタの進出を念頭に自動車産業の発展にチャンスを見出したのだ。今後、自動車産業への就職を目指す学生向けのトレーニングセンターを開設し、技術者や経営人材を養成する計画だ。
トランプリスクがあっても、メキシコの自動車産業は成長に貪欲だ。しかし能力のある人材を確保できなければ、おぼつかなくなる。自動車メーカーは2つの大きな悩みの種を抱え続ける。
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