常見:コピーを減らそう、無駄な会議を減らそうと、企業や労働者個人の創意工夫、努力の話になりがちですが、本来ならば国や企業が儲かる仕組みを作っていかなければなりません。今の議論では、単に労働者に効率性を求めているだけですので、より苦しい状況に追い込まれてしまうのではと懸念があります。
なぜ労働時間は増えるのか?
常見:中川さんの『電通と博報堂はなにをしているのか』(星海社新書)を読みました。博報堂出身で今も博報堂と仕事をしている中川さんだから書けた本だと思います。ひとつ質問したいのは、働きすぎについて大手広告会社の組織風土に原因を求めています。では、なぜそのような組織風土が生まれていったのでしょうか?
中川:「見えない敵」と戦うからです。ほかの代理店と競合コンペをやるときに、どんな隠し玉を彼らは出してくるのかとつねにおびえている。じゃあこっちは考える時間を2倍にしてやつらを超えようと考える。食品メーカーの場合だと、ビタミンCの配合を増やしてくるだろうな、といったような想像がつくのかもしれませんが、広告代理店の場合は相手がどんな手に出るのかわからない。もしかしたら、バラク・オバマ元大統領を使うかもしれない。わけのわからない情報戦が繰り広げられていて、しかも代理店のスパイがいて裏で余計な情報を流し合っている。その結果、見えない敵を恐れて、残業が延びてしまう。
常見:「お客様は神様だ」思考と結び付いて、より労働時間が長くなっているのですね。このマインドは、どうすれば改善するのでしょうか。
中川:今の日本は、100点を取ることが求められる社会です。たとえば78点を取れば許す社会になればいい。広告業界はそれでだいぶ改善すると思います。100点の広告と78点の広告とで売り上げがどれくらい変わるのか。実際ほぼ変わらなかったりするんです。
常見:日本はミスを極端に恐れますよね。アメリカでは配達ミスを減らすのではなく、ミスをしたらすごい速さで届けるという発想です。ミスありきの制度設計になっていますよね。
大手代理店に限らず、今まで日本企業は「社員の頑張り」のような精神論でいろんなことを乗り切ってしまったんじゃないか。働き方改革を見ていても、その根底に「もっと生産性上げて頑張れ」と個人に責任を押し付ける思想があるように思えるんです。先ほどの生産性の議論でも触れましたが、所得を上げたり、経済を成長させるような国の努力なしには、生産性は上がりません。
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