おおた:僕の周りには、家事や育児をしたいお父さんが沢山いるので、バイアスはあるでしょうね。実際に、残業禁止にしたら育児や家事をやるのか? より家事に協力して、妻の負担を減らそうとする人もいるでしょうし、飲みに行ってしまう人もいるかもしれません。それって突き詰めると個々人の夫婦関係のような気がしますね。そのあたりも踏まえて、国民が何を望むのか考えるのが「働き方改革」の本来の議論であると思います。
成功事例を疑え!
おおた:長時間労働を禁止すると、生産性が上がった!というような成功事例がよく見られますよね。そのうまくいった企業が人材派遣業であったりする。そこが儲かっているということは、非正規がまだ多いことの表れで、世の中全体ではうまくいってないことの証左なんじゃないか、それってものすごく皮肉なブラックジョークじゃないか……と感じてしまう。
常見:成功事例を疑うことも必要ですね。「残業が減ったら業績が上がりました」と紹介されるが本当なのか。因果関係、相関関係が怪しいのです。
中川:いま電通はコンプライアンスを重視しているので、22時に電気が消えます。でも裏でクライアントは「電通のやつらは使えない」と言っている。競合プレゼンで負けまくっていると社内のモチベーションも下がる。目の前の売り上げを確保しようとすると、彼女の自殺の話を忘れる時期まで乗り切ろうとか、そういったマインドになっていくでしょうね。労働時間を減らしただけでは問題解決にはならない。
常見:ほかの会社はもっと深刻かもしれません。電通の場合は働き方改革のために70億円もの投資をすることが認められましたが、ほかの会社はそこで株主に説明できるのか。
中川:普通に考えると、株価は下がりますよね。
常見:「働き方改革」といったところで、株主がOKしなかったらどうしょうもないんですよ。私たちは勝てないゲームの中で踊らされていて、そこで「働き方改革」とついても仕方ないんじゃないか。
赤木:労働って自分だけのものではなく、人のものなんですよね。自分の労働は会社のもので、会社は顧客や株主のものである。誰しも自分の仕事を自分のものにできずにいる。本来はそれをどうにかしなければいけないけど、触れられないですよね。
おおた:「労働時間を減らしました、でも生産量はそのまま」なんてマジックはありえませんからね。長時間労働を減らすのであれば、社会として一時的にはダウントレンドを飲み込む必要がある。多少GDPは下がるかもしれないけれど、1日6時間働き、みんなが今より幸せに過ごせる社会が来るかもしれない。少子化で労働力人口は減るかもしれないけれど、ピンチはチャンスだと思って課題先進国としてやっていく。そういう発展的な議論をする必要があると思います。
それって、1年や2年で簡単に答えは出ないものです。長いスパンをかけて答えのない問いに挑み続けましょうという形でコンセンサスにたどり着くのが、大きな1歩になると思います。
(構成:山本ぽてと 撮影:徳井愛子)
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