太陽王ルイ14世は文化現象の基準点を創った ヴェルサイユ宮殿は何がスゴイのか

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歴史人物の伝記というと、読むことを躊躇してしまう人も多いかも知れない。確かに歴史の専門家が書く伝記は読者がある程度の知識を持っていないと、読んでいても意味がわかりにくいものが多数存在する。しかし、そこは『馬車が買いたい』などを筆頭に数々の面白い歴史本を著してきた鹿島茂である。本書もパスカルの『パンセ』やエマニュエル・トッドの家族構成がもたらす文化的差異を分析した理論などを応用し、ルイ14世の生きた時代を軽妙に描き出している。

では、ルイ14世がなぜパリ市郊外のヴェルサイユにこのような大宮殿を築く事になったのか、その概要を見てみよう。鍵となるのは中央集権化、フロンドの乱、愛と自己顕示欲(本書ではドーダ心)、そしてスーパーアイドルとしての太陽王ルイ14世と生身のルイ14世だ。

中央集権化という改革

このレビューでは、中央集権化の問題を中心に見てみようと思う。当時ヨーロッパ諸国の間ではいち早く中央集権化に成功し、効率的に国家運用ができるようになった国が覇権を握るようになるという認識が王及び王権支持派の間で一般化しており、各国は他国の中央集権化を阻害するために頻繁に戦争を行っていたという。フランスもリシュリュー枢機卿の下で、国内おいては中央集権化にまい進し、対外的には戦争を行っていた。この路線はリシュリューの後継者、マザラン、そしてマザランがルイ14世に残した「最大の贈り物」たるコルベールへと受け継がれていく事になる。

彼ら「王以上の王権派」が行った中央集権化という改革は当然ながら既存の利権集団から大きな反発を招く事になる。これら抵抗勢力の中心になったのが法官貴族と呼ばれる新興貴族だ。彼らは主に高等法院の官僚なのだが、現代の官僚のようにその能力で国家から任命され俸給によって生計をたてている者たちとは異なる。国家が売り出した「官職」という株を買いとったブルジョアや貴族の次男三男などで形成されていた存在である。

俸給は支払われるが金額は少なく、今で言う国債の利子のような感覚で払われており、彼らは官職を持つことで手に入る様々な特権や利権から上がる利益で生計を立てていたそうだ。今で言う賄賂やリベートのようなものだろう。これらの官職株は自らの資産で買取り、自由に売りに出す事も世襲する事も認められていたので、国家の従僕としての官僚という認識は無く、一種の独立した利権団体として王権から半独立状態にあったという。

では、このような売官制がなぜ存続していたかと言う点だが、ひとつは戦費調達のために国家が頻繁に官職を売りに出していたため。もうひとつは、フランス北部の家族制度が関係していると著者は述べている。

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