43年ぶりに復刻、世界で唯一の「原爆きり絵」絵本。著作権継承者が見つからず苦戦、手がかりは《YouTube》にあった

幻の絵本となっていた『原爆ヒロシマ』の初版(画像:潮書房光人新社)
約40年前に刊行され、広島県内の学校などで人気を博しながら長年品切れ状態となっていた幻の絵本『きり絵画文集 原爆ヒロシマ』(寺尾知文著)が6月下旬、戦記出版専門の潮書房光人新社(東京)から復刊される。
きっかけは、同社のベテラン編集者が偶然見かけたYouTubeの朗読動画だった。その動画は著名な反核・反戦運動家サーロー節子さんの母校、広島女学院高校(広島市)の卒業生が運営。そこから人脈を手繰り寄せ、著作権継承者を半年がかりで突き止めた。
絵本は、救援のため原爆投下直後の広島市内に入った陸軍兵士(著者)が目撃した「生き地獄」を、一本の刀(とう)によるシャープなラインのきり絵で再現。数ある原爆関連の絵本の中でも兵士目線で描かれた唯一無二の存在だ。原爆投下から80年の節目にあった数奇な物語をお届けする。
初版刊行時の電話番号は使われておらず
「原爆投下から80年。復刊には絶好の、そして最後の機会だが…」
潮書房光人新社のベテラン編集者、坂梨誠司(63)はデスクの片隅に置かれた古びた一冊の絵本が気になっていた。1982年に刊行された『きり絵画文集 原爆ヒロシマ』(A5版、横綴じ、本文96ページ)。
著者である寺尾知文が原爆投下直後に現地で目撃した惨禍を「きり絵」で再現した世界唯一の絵本であり、あらゆる年齢層の読者に鮮烈な印象を残す名作画文集だ。
「その地獄絵が、あの日以来、私の胸中に住みついた」
この目で見、この耳で聞いた原爆の図を、たとえ拙くとも、後世に描き残しておこうと、ある日、思い立ったのだ。いまこそ描かなければ、明日では遅すぎるかもしれない。還暦も過ぎてから、私は駆り立てられるようにして絵筆をとり、切り絵用の刀(とう)を揮った。(『きり絵画文集 原爆ヒロシマ』より)
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