それでも産みたい…「卵子凍結」する人の本音 385人の不安に、医師と経験者が回答

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「私は、乳がんになり、卵巣の凍結に踏み切りました。私の場合、病気のせいで排卵誘発剤が使えなかったため、卵子の凍結保存はできず、それでも将来子どもが欲しい、それが夢だった私は卵巣凍結をお願いし、手術を受けました。
卵子の凍結がもっと身近にあったら、少しでも心が救われる人はたくさんいると思います。いつ病気になるかわからないし、子どもが産めなくなるかもしれない、でも妊娠を望んでいる女性はたくさんいると思います。病気が見つかるまでは思いもしませんでしたが、卵子を凍結しておけたらどんなによかったか、と思います。(27歳・会社員・愛知県)」

卵巣の凍結というのは、卵子が入っている卵巣を切除して、そのまま凍結保存する方法。全身麻酔を伴う手術で行われ、費用も保険適用外で合計60万から70万円ほどかかる。体への負担、金額を考えると卵子凍結保存のほうが良かったのだが、卵子を採取するために使う排卵誘発剤が乳がんを進行させてしまうということで、仕方なく卵巣自体の踏み切ったという。

「私は、子どもが好きなので、若い頃からいつか子供をもちたいと考えていました。助成金が出るそのような話があれば私は健康であっても卵子凍結をしていたと思います。少しでも若い卵子を残しておきたい、仕事ももう少し頑張りたいため、結婚はもう少し先だろうと考えていたからです。
でも、ほとんどの自治体では結婚していないと助成金がおりない、受精卵しか対象じゃない、など、独身女性にはあまり優しくありません。がんがきっかけで友だちになった女性は結婚していたために、助成金で受精卵凍結ができたそうです。独身女性はなにもできないの……?というのが正直な気持ちでした。」

彼女は現在も抗がん剤を使って、乳がんの治療を続けている。もちろん、将来、子どもを持つこともあきらめてはいない。

選択肢が増えたことによる迷いも

選択肢が増えた現代だからこそ、その多様さに悩む一面もあるだろう。未来が見えない中で、今の自分は何ができるのか……。

「若いときの卵子を凍結して保存しておけば、もしかしたら」

「高齢でも不妊治療を続けていれば、もしかしたら」

そんな期待を掛けられる時代になったからこそ、迷うということもまた事実だ。

一方で、妊娠・出産という過程において、何をするにしても体への負担が大きいのは女性だということは間違いない。年を重ねた後、自分のお腹に自身で注射をしながら、どうして私が……と悩む女性は、決して少なくないのだが、彼女たちは表立っては多くを語らない。

卵子凍結保存は、あくまでも数ある選択肢の1つにすぎないし、関係者たちもすべての女性に勧めているわけではない。私がこの取材で何度も耳にしたのは、「いつか、卵子凍結という選択肢がなくなる日が来てほしいと思っている。そんなことをしなくても出産できる社会になるべきだから」という声。

社会の変革はもちろん急務ではあるが、それと同時に出産を希望する女性たち自身も、もっと現実を理解し、できるだけ無理のない形で授かれるようになることを願ってやまない。

藤村 美里 TVディレクター、ライター

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ふじむら みさと / Misato Fujimura

都立国分寺高校、早稲田大学卒業後、テレビ局入社。報道情報番組やドキュメンタリー番組でディレクターを務める。2008年に女児出産後、視点が180度変わり、児童虐待・保育問題・周産期医療・不妊医療などを母親の視点で取材。2013年に退社し、海外と東京を往復しながらフリーで仕事を続けている。Twitter @MisatoFujimura 

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