ニッポンの石油化学、静かに迫る危機 三菱ケミ-旭化成連合、エチレン1基停止へ

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こうした背景から、日本勢では三菱化学が昨年、鹿島事業所(茨城県神栖市)において、エチレンプラント2基のうち1基を2014年に止めると決断。住友化学は今年2月、千葉工場(千葉県市原市)におけるエチレン生産を15年9月までにやめ、事実上、エチレンの国内生産から手を引くことを表明している。

水島地区において三菱化学―旭化成連合が探っている戦略も、同様の流れに沿ったものだ。旭化成にとっては、石化事業のおおもととなるエチレンの自社単独生産をやめるという重大な決断になる。「思いはあるかもしれないが、経済原則で冷静に判断した」(旭化成ケミカルズの小林友二社長)うえで、今回の発表に至っている。国内生産から事実上撤退する住友化学と同様に、それだけ事態が深刻であることを示している。

「まだ150万トン余る」

一方で、国内で15基あるエチレンプラントのうち3基が停止しても、内需500万トンに対する生産能力は「まだ150万トン(程度)余る」(三菱化学の石塚社長)。ところが、これ以上の再編となると、ことはそう簡単ではない。

「たまたま水島で壁を隔てて同業の三菱(化学)さんがいたというのは幸運だった」と旭化成ケミカルズの小林友二社長は明かす。エチレンプラントを中核とする石化コンビナートは原料から「誘導品」と呼ばれる化学品に至る過程で、複数企業がそれぞれの工程を分担、連携して成り立っている。

コンビナートの参画企業や誘導品の構成は、それぞれにバラバラ。複数社のエチレン設備が並んで建つ水島や千葉、川崎といったコンビナートでなければ、集約もうまく進まないが、5基が隣接する千葉地区では、すでに共同運営している三井化学―出光興産が呼びかけた大連合に、住友化学や丸善石油化学などは参画しない方向だ。

結局のところは、大半が単独で生き残りを目指す“我慢勝負”に突入するという流れが避けられない。「日本でしかつくれない難しい誘導品、付加価値のある誘導品をつくれるかがポイント」(三菱化学の石塚社長)になるものの、そう簡単な話でもない。稼動率が一段と低下するエチレンプラントが出てくれば、ダウンサイジングや撤退などといった抜本的な改革や淘汰を迫られることは十分ありうる。ニッポンの石化産業は、明確な対処法を見付けられないまま、少しずつ危機へと向かっている。

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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