「甘言(かんげん)耳に快く、諫言(かんげん)耳に痛し」ということわざがある。「自分を甘やかす言葉は聞き入れやすいが、自分を諫(いさ)める言葉は聞き入れがたい」という意味だ。先輩の苦々しい忠言など、普通は何度も繰り返し見たくないものである。しかし、清藤さんはそれをメモに残して、その意味がわかるようになるまで見返した。そうした行動が清藤さんの成長を加速させたのだろう。
「尊敬する経営層の先輩を見ていて感じるのは、成長をやめていないということです。自分がビジネスパーソンとして完全体になることは一生ありません。ですから、日々成長するきっかけを与えていただける言葉は私にとって宝物です」
大企業の「巨大ピラミッド構造」を耐え切れない重圧があるととらえるか、それだけ多くアドバイスをくれる人がいるととらえるか。それは、自分次第だ。清藤さんは大企業の「フィールドが広い」という資産に加え、「人材が豊富である」という財産も、上手に成長の糧にしてきたのである。
しかし、清藤さんは「自分が成長すればそれでよい」とは思っていない。これまで自身が先輩からしてもらってきた以上のことを、これからを担う後輩に還元し、組織を成長させている。
「私は『マッチングストーリー』が大切だと思っています。基本的に個人の考え方や生き方を否定することはしません。その人が何をやりたいのか。まず相手の幹の部分を理解するように努めます。そして、一人ひとりが今いる段階に合わせて『こういうことをやってみない? これをやると、これだけいいことがあるかもしれないよ』という具合に、その人その人のストーリーに合った機会を提供するようにしています」
清藤さんは、一方的に組織の事情を個人に押し付けるのではなく、会社の円と個人の円を重ねて「ベン図」をつくるように、双方の成長ストーリーを紡いでいく。
「社員一人ひとりと向き合うのはすごく手間がかかるように思われるかもしれませんが、愛情を注ぎ、手塩にかけて育てれば、人は曲がりません」と、清藤さんは力を込める。
「たとえば、『3年後に別の会社に転職したい』という相談を受けたこともあります。『それなら、将来希望するところに行けるように、この3年間を無駄にしないで一緒にやろう』『次の会社に行くときには、こういうことも必要じゃない? だったら、それを目標に置いてみよう』と話すと、すっかり転職のことを忘れて『面白い、面白い』と言って仕事に取り組んでくれるようになりました。その社員は、結局今も会社に残って活躍しています(笑)」
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