「ミシュラン3つ星店」支える精神科医の存在 激しい競争を勝ち抜くには癒やしが必要

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プーチは新しい更衣室にどんなことを期待するか聞いた。鏡で自分の姿をチェックするときプライバシーがあったほうがいいか。専用の化粧スペースが欲しいか。

「更衣室の改造について深く考えたことがなかった。でも、更衣室しだいでその日の始まり方はずいぶん変わる」と、セラピーに参加したナーチョ・バウセイス料理長(シェフ・ド・キュイジーヌ)は語る。「どうすれば気持ちよく仕事が始められて、どうだとそうでないか、誰もが意見を持っていた」。

サービススタッフと料理人の「壁」を取り除く

アル・サリェーはロカ3兄弟が経営するレストランだ。その長男でエグゼクティブシェフのジョアン・ロカは今年1月、8人の料理人を引き連れてアメリカのヒューストンに出張した。スーパーボウル前に開かれる2つの夕食会の準備を任されたのだ。

そこでプーチは、ヒューストン出張に参加しなかった料理人たちの話を聞いた。彼らは置いてきぼりにされた気がしただろうか。何人かの料理人は、次にこういう機会があったら参加したいと言ったが、大きな落胆を示す者はいなかった。むしろ普段よりも大きな仕事を任されて楽しかったと言う料理人もいた。

ロカ兄弟などとカウンセリングを行うプーチ氏(写真:Samuel Aranda/The New York Times) 

プーチがセラピーをする相手は毎週違う。料理人とサービスを混ぜたグループにして、厨房とダイニングルームの「壁」を取り除く助けをすることもある。

「セラピーのとき以外は、厨房の連中と問題を話し合うことはあまりない」と、エリック・オリウ給仕長は語る。だが、客の気まぐれに直接さらされるのは彼のスタッフだ。だからセラピーは、料理人より格下扱いされがちなサービススタッフの直面する問題を話す貴重な機会だという。

高級レストランでは、「シェフがスターだ。そこでサービスの仕事をするということは、日陰の存在であることに慣れなくてはいけない」と、オリウは言う。

プーチのおかげで、ウエーターが厨房に皿を戻すタイミングについて、厨房スタッフとルールをつくれたこともあるという。凝りに凝ったアル・サリェーの料理は、料理を出すタイミングが命。それがサービスによって乱されると料理人は激高しがちだ。

「客がたばこを吸いに外に出たり、カップルが言い合いを始めたりしたら、料理の準備をストップしないといけない。さもないと、新しい料理を出してもそのカップルは目もくれず、結局料理が冷めてしまう」とオリウは言う。「厨房には厨房の緊張とペースがある。でも、客に対応するのは私たちなんだ」。

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