「楽園企業の若手平社員」は、ここまで自由だ 「月給100万円」と自分で決められる?

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当然、問題はあちこちで起きる。だが、同社では「新しいことに挑戦すれば、失敗は起きる」ために、むしろ「自分の頭で考えて自発的に動いたこと」のほうが高く評価される。その実践ぶりを、3つの山田語録を通して紹介しよう。

「自分の頭で考えて自発的に動く」習慣をつける

1.「仕事を任せれば、人は勝手に育つもんや」

この山田語録を、身を以て体験したのが現在経理部課長のSさん。入社2年目で経理に異動になると、3年後の株式上場プロジェクトチームに入れられた。しかも彼以外は、経理業務の経験さえない社歴5年目以下の20代ばかり。

実際にはワンランクどころか、3、4ランク上のハードな業務だった。

「失敗や試行錯誤はあったらしいが、3年後には上場できた。誰ひとり交代せずに、やり抜きおったぞ。『仕事を任せれば、人は勝手に育つ』もんや」

2.「業務への適性は、仕事をさせてみないと、わからんやろ?」

社員2人で創業後、山田氏は採用したての新人を、いきなり「部下なし部長」にどんどん抜擢していった経験の持ち主。たとえば、元地方銀行勤務の人間を連れて来て、「今日から、部下なし総務部長に任命する」といった調子だ。

「『芸は道によって賢し』という、ことわざを知っとるか? 何事もひとつのことに徹して努力していれば、自然とうまくなるという意味や。そもそも、業務への適性なんて、仕事をいったん任せてみんとわからんやろ?」

3.成功しても失敗しても、どちらにせよ、ええ勉強や

地方工場で使う製造機械の購入から、ひいては本社屋の設計や発注までを、未来工業では本社ではなく、なんと各現場の社員たちに決めさせている。これも「自由すぎる若手社員」を育てる雰囲気づくりのひとつだ。

「社員たちの判断が正しければ、その実績が自信になるわな。もし失敗したら、自分たちで選んだ以上、誰のせいにもできん。人一倍反省もするやろうし、コスト意識や仕事への責任感も当然高まる。どちらにせよ、ええ勉強なんや」

山田氏は淡々とそう話していた。この一見アバウトで、実はとても真っ当な考え方が、「自由すぎる若手平社員たち」に「自分の頭で考えて自発的に動く」ことをうながしている。

「入社したての社員に思い切って働いてもらうには、会社はできるだけ管理せず、自分で考えて行動する試行錯誤を積み重ねていくしかない。社員のやる気と、会社の差別化戦略が両輪になって、会社は大きく伸び始めるんや」

一方で、あなたの会社はどうだろうか。「管理最優先」で、日々の「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」に膨大な時間と労力を費やし、ヘトヘトになっていないだろうか。

未来工業の「自由すぎる若手平社員」は、「経営者が人を信じ切ることの信念」が生み出したものだと筆者には思えてならない。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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