対北朝鮮の「敵基地攻撃論」には実効性がない 安倍政権下の自民党内でにわかに勢いづくも
ところが冷戦崩壊で状況が一変した。北朝鮮の弾道ミサイル発射は1993年5月の「ノドン1号」が最初で、その後も今日に至るまで断続的に行われている。北朝鮮のミサイルは日本に対する直接的な脅威であり、そこに拉致問題も加わってタカ派議員を中心に対北朝鮮強硬論が広がっていった。
北朝鮮を想定した「敵基地攻撃能力保有論」もその一つで、北朝鮮が実験をするたびに何度も議論されてきた。「やられる前にやっつける」という国民にわかりやすく受け入れられやすい理屈である。ところが意外なことに歴代首相や防衛相らはほぼ一貫して否定的あるいは慎重な姿勢を取ってきた。
歴代首相や防衛相はほぼ消極的か否定的
政府の要職にある人物で最初に敵基地攻撃論を主張したのは石破茂氏だ。2003年3月、防衛庁長官だった石破氏が衆議院安全保障委員会で「検討に値することだと思う。少なくとも思考停止に陥っては国の平和と独立に責任を持つことにはならない」と積極的な姿勢を示した。このときは小泉純一郎首相が「政府としてそういう考えはない。専守防衛に徹する」と石破氏の発言をばっさりと否定して終わった。
2009年4月には、「テポドン2改良型」ミサイルが発射され、東北地方上空を通過したため日本中が大騒ぎとなった。当然、自民党内から北朝鮮のミサイル基地を攻撃する能力を持つべきだという議論が出て、今回と同様の提言がなされた。
しかし、浜田靖一防衛相は「ただ単に敵基地攻撃ができるということになれば、その後に来るものはいったい何なのか。慎重になるのが当たり前の話だ」とはねつけている。面白いのはこのとき石破氏が「ノドンミサイルがどこにあるのかわからないのにどうやってたたくのか。200基配備されているとして、2つ3つ潰して、あと全部降ってきたらどうするのか。まことに現実的でない」と消極論に転じていたことだ。
また、防衛庁長官経験者で自民党副総裁を務め、国防族議員の大物だった山崎拓氏も雑誌のインタビューに答え「浮ついた議論をして国民を誤った方向に連れていくとはねえ。(中略)日本が仮に攻撃能力を持てば、北朝鮮の基地をたたく能力にはとどまりません。まったく荒唐無稽で、これは周辺国でなくても反発します」と批判し、最後に積極論者を「基礎的教養に欠けてるんです」とまで言い切っている。
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