男性不妊症は、どうすれば治療できるのか?

男性不妊症のプロ、石川智基医師に聞く

男性不妊症の原因とその治療

――なぜ、男性不妊症に対して十分な治療が行われてこなかったのでしょう。

医療側の態勢の問題もあると思います。男性不妊症は泌尿器科医の担当になりますが、かなりマイナーな分野で、専門医は全国で46人しかいません。しかも、東京、大阪など大都市に偏っています。婦人科医は通常、精液所見まで診た後、治療は泌尿器科の男性不妊専門医を紹介しますが、気軽に紹介できる状況にはありません。しかも、手術を受けるとなると、半年以上待たなければならない、という病院も珍しくありません。

石川智基(いしかわ・とももと)
石川病院副理事長
医学博士。2000年、神戸大学医学部卒業後、生殖内分泌学を研究。米国・ロックフェラー大学、コーネル大学で男性不妊を研究、男性不妊手術を学ぶ。08年に神戸大学大学院助教。その後、オーストラリア・メルボルンのモナシュ大学で男性不妊診療・研究の経験を積み、10年5月に帰国。国内で、まだなじみの少ない男性不妊治療を牽引している。今秋、大阪市北区に、日本初の男性・女性双方の先端不妊治療を総合的に行う「リプロダクションクリニック大阪」を開院予定。

――男性不妊症の治療は待ち時間が長くなってしまうのですね。

ダラダラと時間が過ぎれば、妻の側で、卵子の質の低下が進むおそれがあります。妻の年齢が高い場合は、順番待ちをしている余裕がないこともあるでしょう。そのため、不妊クリニックでは、とりあえず精子を得られる場合は、精子を直接卵子に注入する顕微授精に頼りがちになります。

――精液所見が悪い場合、顕微授精の結果に影響するのですか。

顕微授精に使う精子の質を、その外見だけで見極めることはできません。しかし、全体的な精子の質は、精液所見の結果に比例することがわかっています。つまり、精液所見が悪ければ、精子の質も低い、と予測できるのです。質の低い精子で顕微授精を行えば、妊娠できる率は下がり、流産する率が高くなります。その結果、顕微授精を何度も繰り返すという悪循環に陥り、妻の負担はますます大きくなってしまうのです。

――そもそも男性不妊症とはどういうものなのしょうか。

精液所見によって、精子が少ない乏精子症と、精子がいない無精子症に分けられます。原因は、停留精巣などの手術や化学療法、放射線療法の治療歴がある場合のほか、おたふくかぜを起こすムンプス・ウイルスによる精巣炎の既往歴などさまざまです。

最も多いのは、陰嚢内の静脈にこぶができる精索静脈瘤です。精巣は、32~34度程度に保たれるようになっているのですが、高温などのストレスに弱く、37度になると機能が半減してしまいます。ところが、陰嚢に精索静脈瘤があると、陰嚢が“湯たんぽ”を抱えているような状態になり、精巣機能を低下させます。また、静脈瘤によって腎静脈から血液が逆流するので、精巣に酸化ストレスも加わります。私は、精索静脈瘤を見つけたら、できるだけ早く静脈を結紮(さつ)する手術を受けるように勧めます。

――無精子症も治療法はあるのですか。

精巣機能が低くなっている非閉塞性無精子症の場合であっても、40%程度の場合は、わずかですが精子が造られています。そこで、精巣の中から精子形成をしている部分を顕微鏡下に探し出し、その良好な精細管を取り出して、精子を採取する手術が「マイクロTESE」です。

一方、精子の通り道が詰まっている閉塞性無精子症の場合は精路再建術を行います。この手術は髪の毛より細い糸を使って顕微鏡下で行う難易度の高い手術で、国内では、その技術を持つ医師はごく限られています。そのため、精路再建術という選択肢を示さずに、TESEなどによって採取した精子を使って、顕微授精を行うケースが多いのです。卵管閉塞など女性側にも問題があったり、妻の年齢が高く、時間的制約が厳しい場合などは別ですが、本来は、女性に無用な負担をかける顕微授精ではなく、男性の精路再建を第一選択とすべきはずです。

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