アメリカで機会格差の拡大が起きた理由 危機にあるアメリカン・ドリーム

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それらの結果として、現在のポートクリントンでは子どもの貧困率が全体で40%近くまで上昇している(20年前の調査では10%未満)。だがその一方で、エリー湖岸沿いのカトーバ居住区は同様の変化を経験しておらず、子どもの貧困率も1%にすぎない。そうした事実と以下ふたつの衝撃的な図からわかるように、ポートクリントンではいまや居住地域の分断が生じているのである。いうなれば、通りのこちら側とあちら側ではまったく別の世界。「湖岸にある富裕層向け不動産から、貧困にあえぐトレーラーハウス地区まで、徒歩10分以内で行くことができるのである」。

オハイオ州ポートクリントンにおける子どもの貧困、1990年(出典:国勢調査1990年データ、ハーバード大学図書館よりアクセスした Social Explorerにより集計)
オハイオ州ポートクリントンにおける子どもの貧困、2008−2012年(出典:ACS 2008−2012年〈5年推定〉データ、ハーバード大学図書館よりアクセスした Social Explorerにより集計)

学校に持ち込まれる「違い」

そのような分断が生じているのは、なにもポートクリントンに限ったことではない。さらにいえば、分断が生じているのは居住地域に限ったことでもない。多くの場合、裕福な地域の子どもと貧しい地域の子どもはそれぞれ別の学校に通っている(第3章)。また、上層階級と下層階級の子では、属するコミュニティのきずなが違っている(第4章)。もちろん、両者の家庭では家族構造(第2章)も育児のあり方(第3章)も異なる。そして、そうした相違のそれぞれが要因となって、両者の間に驚くほど大きな機会格差をもたらしている、とそうパットナムは主張するのである。

それらの要因に関するパットナムの議論は、どれも注目すべきものである。たとえば、「組織としての学校」よりも「場としての学校」のほうが機会格差を広げているという指摘。つまり、学校の教育そのものの違いよりも、むしろ子どもたちが学校に持ち込むもの(たとえば親の関与や競争、あるいは暴力)の違いのほうが、格差拡大の大きな要因となっているというのである。

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