会社の中に保育所があったらホントに便利か 政府の後押しで注目される「企業主導型」

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急速な拡大が見込まれる企業主導型保育だが、預けられる子どもやその親にとって、本当に使い勝手がいいのだろうか。実際は、設置元の企業や受託する保育事業者の運用次第で、大きく変わってくるだろう。

懸念のひとつは、そもそも待機児童が特に多い東京都などの都市部で十分に展開できないのではないかということ。ニチイ学館の場合も、まずは地方からの展開となっている。「地方では車での通勤が多く、自宅近くの保育所でなくても問題がないケースも多い」(ニチイ学館の宮田氏)。だが、都心部で職場近くの保育所に通う場合、毎朝子連れでの電車通勤を強いられることもあり、親子ともども負担が大きくなりがちだ。

また、都心部では保育所の設置に適したスペースを見つけられないことも考えられる。「とにかく量を5万人分増やすことが主眼になっているが、特に都市部の待機児童解消にどれだけ効果があるかは検証が必要」と、保育に詳しい日本総合研究所の池本美香・主任研究員は話す。

長時間労働が肯定されてしまうおそれ

もう1つの懸念は、社員の長時間労働が助長され、子どもや保育士にもシワ寄せが及ぶ可能性があることだ。夜間(残業時)や週末(休日出勤時)の保育ができれば、企業は社員を長時間働かせることができるし、延長保育・休日保育の加算も得られる。一方で、企業の働き方に合わせなければならない保育士にとっては負担が増す。子どもにとっても、長時間預けられることが必ずしも好ましいとは限らない。

日本総研の池本氏は「企業主導型保育は、長時間保育ができることを売りにしている。そもそも日本は欧州、豪州などと比べて預かり時間が長い傾向にあり、それが保育士不足を引き起こしているはずだが、ますます長時間の方向に向かっている」と指摘する。

現在は空前の保育士不足の状態。夜間や週末の対応が必要な保育所には保育士が集まらない可能性もあり、残りは保育士資格を持たないスタッフで補うしかない(保育従事者に占める保育士資格保有者の割合は50%以上であればよい)。そうなれば、保育の質の低下が懸念されるところも出てくるかもしれない。

制度を管轄する内閣府は来年度から年1回、都道府県の調査に加え、企業主導型保育施設への立ち入り検査を強化する方針だ。「助成金が適切に使われているか、人員配置や建物の基準を満たしているかをチェックする」(内閣府)。

とはいえ厚生労働省によれば、これまでも事業所内保育施設の立ち入り調査の実施率は届け出対象施設の約4割にとどまり、調査を実施した施設でも、そのうち約3割は指導監督基準に適合していなかったという報告もある。企業だけでなく社員や預けられる子ども、保育士にとって健全な仕組みとなるよう、注視していく必要がある。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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