会社の中に保育所があったらホントに便利か 政府の後押しで注目される「企業主導型」

拡大
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そもそも、企業や病院などが従業員向けに設置する保育所(事業所内保育所)は以前からあった。ただし自治体の認可を受けない認可外保育施設で、国からの運営費補助も5年間に限られていた。

2015年度からの子ども・子育て支援新制度では自治体の認可を得られるようになったものの、保育士の配置や地域の子どもの受け入れなど、認可のためのハードルが高かった。2014年度末で事業所内保育施設は4593カ所を数え、増加傾向にあったが、新たに認可を受けたものは2015年4月1日の時点で150カ所にとどまっていた(全国保育団体連絡会・保育研究所編『保育白書』)。

2016年度から企業主導型保育が導入されたのは、保育の受け皿拡大のためのさらなる規制緩和の1つといえる。保育所「ニチイキッズ」など全国で129の保育所を運営するニチイ学館は、このスキームを利用して、保育所を急速に拡大している。

同社は大手生命保険の日本生命保険(以下、日本生命)から社員向け保育所の設置・運営を受託。日本生命や自社の社員の子ども、地域の子ども(0~2歳、定員18名)が利用できる保育所を、2018年までに全国に100カ所設置する。新制度に切り替わる前は、認可保育所の開設ペースは年間約20カ所だった。「2年で100カ所」というのは、かなりのハイペースだ。

「市区町村の関与不要」も設置側には好都合

これほどのペースで拡大できる理由は、やはり設置や園児募集の際に「市区町村の関与が不要」ということだ。「待機児童がいるのに、(将来の人口減などを理由に)なかなか保育所を新設しない自治体もある。また、特定の法人を相手に展開するには、自治体が入所者を決める従来の認可保育所の仕組みでは難しい」と、ニチイ学館保育事業部事業推進課の宮田啓太郎課長は話す。

さらに現在、保育所の設置主体は、公立の場合は市区町村、私立の場合は社会福祉法人が大半。2000年には規制緩和により株式会社の参入が可能になったものの、自治体によっては株式会社の参入に慎重な姿勢を取っているところもある。現在でも株式会社の運営する園は全体の4%ほど。ニチイ学館のような、保育所を展開している株式会社にとっては、自治体を通さない企業主導型保育のスキームは好都合だ。

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