石原氏が小池知事に「恨み節」を繰り返す理由 感情的な対立が続いているのはなぜなのか

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「なぜ豊洲を放置するのか。膨大な保障費を払っているが、これは都民の税金だ。これは(政治の)不作為に値するのではないか」――。このように豊洲移転を渋る小池知事を厳しく批判するとともに、石原氏は持論の文明論を展開したのだ。

「そしてあなた、大事な問題だが、安全と安心の問題は豊洲だけの問題ではない。また東京都の問題だけでもない。これは一種の文明論であって、一方に科学があり、一方に人間の心がある。このふたつの要素に相克がある限り、この問題はなかなか終わらない。つまり我々は全能であるわけではない。科学も含めて全能ではないので、そういうものを踏まえた上で折り合いというものを考えなければならない。せっかくおカネを使って建設した市場は、都民のために使うべきだと私は思う」

「屈辱を晴らすためには一命を賭す覚悟」

健康上の見地からわずか1時間(休憩時間を除く)となった石原氏の証人喚問だが、小池知事への批判になると石原氏の顔は生気にあふれ、言葉はスラスラと出てきている。というのも、今回出頭した目的は、小池知事から「逃げた」と言われた屈辱を晴らすためなのだ。文藝春秋4月号の寄稿において、石原氏は「この屈辱を晴らすためには一命を賭す覚悟もある」と述べている。

石原元知事の百条委員会証人喚問を受けて都庁でぶら下がり取材に応じた小池知事は余裕の笑顔を見せていた(写真:日刊スポーツ/アフロ)

一方で石原氏の陳述を聞いた小池知事は「(土壌の環境基準は)石原都政から決まっていたことだ。私がハードルを上げたわけではない。その基準を判断して、延期を決めた」と記者団に語り、混乱の原因は石原氏にあると示唆した。

石原氏対小池知事の闘いはこれで終わらない。都議会の各会派は都議会自民党を除き、石原氏の再度の出頭を希望している。そして小池知事も豊洲市場移転問題を7月の都議選の主要論点にし、都民を引き込んで石原氏の責任追及を続けるつもりだ。

小池都知事には「追い風」が吹いている。専門家会議が3月19日、地下水再調査の結果、最大で環境基準値の100倍のベンゼンと、3.6倍のヒ素が検出されたことを発表した。地上部はコンクリートで覆われているため「安全」と判断されているが、小池知事は「安心」ではないというわけだ。感覚・感情の点で、小池知事の主張のほうが受け入れられやすいことは間違いない。両者が一歩も譲らない怨念の対決は、まだしばらく続きそうだ。

安積 明子 ジャーナリスト

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あづみ あきこ / Akiko Azumi

兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1994年国会議員政策担当秘書資格試験合格。参院議員の政策担当秘書として勤務の後、各媒体でコラムを執筆し、テレビ・ラジオで政治についても解説。取材の対象は自公から共産党まで幅広く、フリーランスにも開放されている金曜日午後の官房長官会見には必ず参加する。2016年に『野党共闘(泣)。』、2017年12月には『"小池"にはまって、さあ大変!「希望の党」の凋落と突然の代表辞任』(以上ワニブックスPLUS新書)を上梓。

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