DMM「斬新すぎる新オフィス」に隠された思惑 「外からの期待」で社員の能力を引き上げる

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両社による新オフィスのデザイン、設計、施工完了までに要した期間は、昨年4月から約11カ月。近年、IT・ネット企業を中心にオフィス空間のデザインで独自性を打ち出そうとする企業は増えているが、ここまで時間とおカネをかける例はなかなか珍しいと言えるだろう。

なぜDMMはこれほどこだわったオフィス作りに乗り出したのか。野本氏はその理由について、「外から来た人の目をいちばんに意識してのことだ」と明かす。

「優しいオフィス」とはちょっと違う

「たとえば取引先の方がこのオフィスに来て、楽しんだり、衝撃を受けたりしてくれたなら、『この会社への提案は並大抵のものではダメなんじゃないか』とか、『優秀なメンバーを投入して挑まなければ』と、無意識的に感じてくれるかもしれない。それは会社にとって大きなプラスになる。

同時に、DMM社員への見方を変えることにもつながる。言ってみれば、ファッションに興味のない社員も含め全員にスタイリストが付いて、毎日すごくおしゃれな格好でお客さんの前に出ているような状態。クリエイティブでない人にも、クリエイティブさを期待される。そうやって『感度が高い集団』と外から見られることは、ひいては社員が自身のアウトプットに対して意識を高めるきっかけにもなるはず。

社食や保育施設を充実させて、働く人のことを考えた『優しいオフィス』をつくるのも素晴しいことだと思う。ただ、うちの新オフィスで追求した価値はそういうものとはちょっと違う。むしろ外部からの期待が高まり、社員に対するプレッシャーが増すかもしれない。でも、それが個々人の可能性を引き出し、能力を引き上げる」

DMMでは今年1月、新社長にイラスト投稿・交流サイト「pixiv(ピクシブ)」の生みの親である片桐孝憲氏(35)が就任、新たなスタートを切った。また直近では、3月10日にアニメ制作事業への参入(年間20本程度制作予定)を発表するなど、これまで以上に多種多様な領域で業容拡大を狙っていく構えだ。野本氏も指摘する「社員の能力引き上げ」が今後の成長の要になるのは間違いないだろう。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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