現在のところ、メディアの記事では、「大手eコマース会社からの過酷な要求によって、宅配業の現場が疲弊」という側面がフォーカスされているように思われる。この経済事象は、eコマース会社と宅配会社で取り決められた、契約をどう変えるかということであり、どちらが良い・悪いとの評価は、必ずしも妥当ではないだろう。
つまり、宅配業者が提供するサービスと価格設定によって、もし競争力が劣ることになれば、eコマース会社は別の宅配会社に乗り換える選択肢がある。それができなければ、市場の需給バランスの変化に応じて、eコマース会社が提供するサービスあるいは価格設定が変わるということである。
ところで、日本の宅配サービスが、ほかの先進国と比べて優れているというのはよく聞かれる話である。ロンドンなど欧州では、即日配達などの宅配サービスはほとんど普及していないという。つまり、宅配業などの日本のサービス業が、他国よりも圧倒的にレベルが高い傍証は多い。一方で、日本ではサービス業の生産性が低い、などと、一部の論者が主張しているのも耳にする。
「日本の生産性」に関する悲観論は、今後後退する
このギャップはどう考えればよいか。一部の論者が指摘する「日本の低生産性」は、サービスの付加価値が本来、価格上昇として計測される分が、適正に計上されなかったことによって説明できると筆者は考えている。これには、サービス業の付加価値を適正に計測することがそもそも難しいという、テクニカルな問題も影響している。
また、1990年代以降、財政金融政策が恒常的に引き締め的に作用したことが、デフレの長期化の真因と筆者は考えている。つまり、1990年代から繰り返された金融財政政策の失政に起因するデフレという異常な経済状況によって、経済全体で価格上昇という現象がほぼ消えた。
同時に価格上昇というサービス業の付加価値の高まりが観測されず、サービス業の生産性停滞として表れたのである。その結果、民間企業・家計を疲弊させる当局の緊縮政策によって、GDPの伸びが抑制され、そして労働生産性(GDP÷労働投入量)の長期停滞が観測されているということである。
先に述べたように、宅配業者による値上げの動きは、2%インフレ率安定というアベノミクスの成功が近づきつつあることを意味する。そして、日本経済、とりわけその生産性に関する行き過ぎた悲観論が今後徐々に払拭されることを意味すると、筆者は考えている。
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