「ジャパンオイスター」がアジアを席巻する日 香港の富裕層が「被災地」三陸のカキを絶賛

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モリウミアスは子供のための施設だが、閑散期には以前から社員研修や、日常から離れた場所で行われる「オフサイトミーティング」などで利用する「大人の参加」も多かった。そこで大人の協働宿泊施設として、2017年1月に「モリウミアス アネックス」(新館)がオープンした。人口が減少する中で、世界中の人々がここに集まってくれば、それだけで、この地域が持続していく意味がある。モリウミアスがある雄勝はそれだけのポテンシャルを秘めている。

復興を目的に始まった事業は、既存の枠組みを越える

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「アイデアの基となったのが、2012年に実施された霞が関・新入省行政官、いわゆる官僚の研修です。全省庁の新人の5%、35人ほどが、雄勝での5週間に及ぶ研修で、過疎地域の持続可能な事業を考えるという研修です。この研修の成果として、“日本の未来を紡ぐ家”という事業プランが出ました。それを実際に事業化し、それが2015年のモリウミアスへとつながりました。研修は今年の2017年で、6年目を迎えようとしています」

具体的にはどんなことをやるのか。各7名で編成された5つのチームが1週間ずつ雄勝に暮らし、農林漁業体験をしながら、地域課題を肌で感じ、過疎地域の雇用を生み出す持続可能な事業を考える。雄勝にずっといるわけではなく、宮城県内を走り回り、さまざまな業種の会社、行政や地域住民からヒアリングなどを行い、実際に事業計画書と収支計画書の形にするという研修プログラムだ。5つのチームが1週間ずつバトンリレー形式で宿泊していくため、最終チームが作成するプログラムはより濃いものができあがるという仕組みだ。

被災地は、日本中にある過疎地と同じ課題を有していることが多い。実際に、今までも多くの解決策が発表された。しかも、「チームが霞が関の職場に戻っても、課題が次のチームに受け継がれるなど、つねに考え行動していく姿勢ができはじめました。もともと官僚の皆さんと一緒に作った研修プログラムですが、もちろん民間企業の社員研修も同じように使われています」。

たとえばモリウミアスで「20年後の自社の商品やサービス、事業はどうあるべきか」を考える。「日本の20年後の地域で、農林漁業などの1次産業を体験し、頭だけで考えるのでない肌感覚も使い考える、肉体的にも精神的にもハードな研修です」。

立花さんが考える「継続可能な地域」とは、多様性のある地域、雇用を生み出す持続可能な事業がある地域であり、他の地域から移り住まなくても存続が可能になるという考え方だ。これらは、いま現在、人口減少に悩む地域でも活用できるはずである。人口減少はこれから加速化するが、今から準備をするためにも、モリウミアスから学ぶところは多い。

「イベントで人を招き、地域名を覚えてもらい、商品を買い続けてもらえればいい」という発想では、地域はもはや長続きしません。都市部の人が地域の人とつながり、また企業が地域とつながることでお互いに多様性のある環境で学びや新しい価値を生み出すことができる、持続可能な社会につながると考えています」

被災地で復興を目的に始まった事業は、すでに被災地の枠組みを大きく越えて、次世代の、近未来の日本の「羅針盤」になっているかもしれない。雄勝での取り組みを見ながら、日本の他の地域も、自らの姿を変えていけるか。「明日の日本の行く末」が、かかっているような気がしてならない。

石丸 かずみ ノンフィクションライター

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いしまる かずみ

いしまるかずみ/ノンフィクションライター 千葉県出身。ビジネス、マネー、医療/介護を中心に執筆。茨城県で被災。著書に「石巻赤十字病院、気仙沼市立病院、東北大学病院が救った命」「石巻・にゃんこ島の奇跡」「いちばんやさしいネコの気持ちがわかる本」「マーブル猫」など。
 

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