“鶴の一声”で前進、排出権取引の実現へ…環境省、経済産業省が妥協したウラ
環境省が本命とした「オプション4」とは
その1カ月前、排出権取引市場導入の試案として、環境省は四つのオプションを提示していた(下図)。欧州で行われている排出権取引は、キャップを政府が割り当て、その過不足分を市場で売買するという仕組みだ。制度の大前提であるキャップをどのように割り当てるかがカギであり、そのための選択肢を示したものだ。
炭素の排出源は石油、石炭、天然ガスといった化石燃料であり、その流通経路のどこに網をかけるかで、排出抑制の効果が変わってくる。企業など、排出枠を割り当てられる主体に排出量削減のコストが発生し、それが価格転嫁されていくことで省エネのインセンティブになるからだ。ただ、企業の負担との兼ね合いもあり、これなら誰もが納得するという制度はない。
たとえば、化石燃料の流れという観点からすると、最も川上である化石燃料の生産・輸入・販売業者に排出権を有償で割り当てれば漏れはない(図のオプション1)。しかし、電力会社以下の川下の主体には直接の痛みはなく、それだけ排出削減へのインセンティブが軽くなる。
ほかのオプションにも、それぞれ一長一短がある。欧州排出権取引制度(EU−ETS)に最も近いオプション3を導入したいのが環境省の本音だろうが、現実的な落としどころとしてはオプション4が本命とされた。
福田首相の懇談会メンバーである末吉竹二郎・国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問は「キャップ&トレード(キャップを前提とした排出権取引)への抵抗は強いが、排出権をトレードすることに反対する人はいない。企業が乗るかどうかは、キャップのデザイン次第」と語る。
キャップに対する拒否感が企業に強いのは、原単位を改善しても好況によって活動量が増えた場合には排出量が増えてしまい、努力が打ち消されるという要素が大きい。そのため、活動量に起因する排出増については、オール経済界でつくったファンドにコストを負担させるというアクロバティックな仕組みだ。
キャップ&トレードの体裁をとることと、企業側を説得することを両立させるための苦肉の策といえる。EU−ETSなど先行する市場とのリンクを考えたとき、ぎりぎりの線を狙ったのが、このオプション4だといえるだろう。