金正恩が「身内の粛清」を繰り返す根本原因 父親は3代世襲を望んでいなかった
――では、金総書記はどのような政権承継を考えていたと思うか。
金総書記は、実は日本の天皇制のようなものを考えていたようだ。これは、欧州の王室のような形態だ。政治の実権は持たないが、象徴として君臨する。そんな統治形態を執ろうとしていた。王室が長年存続する国の特徴は、王室が政治的な実権を持たず、象徴的な役割を果たすことに特化することだからだ。彼は、集団統治体制への移行を考えていた。
ただ、金総書記自らが権力を掌握する過程で、多くの人を傷つけた。恐怖政治を行う中で、誰も信頼できなくなった。そして、権力移行の準備がまだまだできていないのに、金総書記が2008年に倒れた。それから息子へ継承させる方向に考えを変えたのだろう。
「誇示」できる実績は、核とミサイル
――金正恩政権のこれまでの5年間をどう見るか。経済的には上向き始めているとの見方が多い。
金党委員長が国民に「誇示」できる実績は、核とミサイルだ。逆に言えば、これしかない。経済状況は不安定なままで、だからこそ金総書記が考えていた後継者の条件である「国家への貢献」という観点では、核とミサイルのみになってしまう。
経済面から言えば、北朝鮮では国民に配給がなされており、その影響や考え方が今でも続いている。だから、働いて月給をもらうという考えがまだ希薄だ。一方で、1990年代後半の経済難、いわゆる「苦難の行軍」の時期に必然的に生じた闇市場(チャンマダン)を通じた生活に国民が慣れてきた。こうなると、金党委員長は「市場」を公式化するほかない。
だが、市場化しても国民は資産を所有することができない。「社会主義」だからだ。すべて国家機関が経済運営をするようにしなければならない体制だ。個人がカネを持つようになってきても、自らの名義でビジネスはできないということだ。それゆえに、政経癒着が生まれる。
政経癒着が生じると、汗を流して正しく働くということがなくなってしまう。贈収賄で経済活動がなされてしまい、これでは健全な経済発展や成長は望めない。
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