金正恩が「身内の粛清」を繰り返す根本原因 父親は3代世襲を望んでいなかった

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羅鐘一元駐日全権大使に金正男暗殺事件について聞いた(撮影:梅谷秀司)
マレーシアのクアラルンプール国際空港で発生した金正男暗殺。北朝鮮の最高指導者である金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄が殺された事件は、まだまだ不明な点が多く、謎が謎を呼んでいる。そんな事件を、韓国を代表する北朝鮮専門家はどう見ているか。
韓国で歴代大統領のアドバイザーを務め、北朝鮮の実態を描き出した新著『張成沢の道』が韓国でベストセラーとなり、国際的に高い評価を受けている羅鐘一(ラ・ジョンイル)元駐日全権大使に、『最強の働き方』『一流の育て方』の著者であるムーギー・キム氏が聞いた。

「不安感」を払拭できなかった

――今回の事件の背景には、何があるのか。

普通に考えると、金正男氏が殺される理由はない。ただ、この事件が示すのは、金正恩党委員長自身が、自らの権力基盤に不安を持っているということだ。「白頭血統」という言葉が最近の北朝鮮からはよく聞こえてくるが、少しでも自らの血統に連なる人物に対し、金党委員長は不安感を払拭できなかったのだろう。

金正恩は何らかの実績があるわけでもなく、権力を継承する正当性を何ら持たずして世襲したため、自身の権力基盤を不安に思ってきた。無理な独裁者が、体制を維持するために粛清で恐怖政治を行うのは、古今東西見られることだ。

――世界の北朝鮮ウォッチャーからすれば、2012年に金党委員長が本格的に政権を担って5年間、すでに権力基盤は固めたという見方が支配的だ。

それはあくまでも外部からの見方。金党委員長自身は「固めた」と思っていない。つねに権力の安定には不安を抱き続けた。それが今回の事件の背景にあると思う。

――北朝鮮で、金正男暗殺のような粛清が繰り返される理由は何か。

それは、北朝鮮においては権力委譲、あるいは権力承継が制度化されていないためだ。いったん、大統領などの最高権力に就いた者が、その座を次にどう安定的に承継させるか。そして、承継させた者が承継した者から危険を負わせられないか。これが制度化されていないため、指導者が交代するたびに大きな粛清が起こってきた。

同じ社会主義国家を例にとれば、かつてのソ連もそうだった。スターリンは「大粛清」と言われるほど人を殺したが、これは彼が殺人狂であったり精神的におかしかったということでは決してない。自分の権力基盤の安定に不安を持っていたためだ。

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