環境先進企業の挑戦<3> 三菱重工−−品ぞろえはフルライン、目指せ低炭素のトヨタ
実は、三菱重工は20年前から風車に取り組んでいる。ヘリコプターのローターの廃物利用から始め、こつこつ米国市場を開拓して一時は米国で30%のシェアを握った。が、その後、GEはじめ欧米勢が物量攻勢に出ると、世界シェア5%以下に。
「GEやシーメンスは買収で拡大してきた。我が社は独自技術。が、太平洋戦争と同じでロジスティックスで負けた。国際的なサプライチェーンをどう形成していくか」(福江副社長)。反転攻勢は、中国市場の開拓から。西安近くの電力会社との提携を皮切りに、東北部、沿海部でも提携先を選定し現地生産する。
“本場”の欧州市場には「洋上風車でなぐり込みをかける」。現在のベストセラー、2・4メガワットの陸上風車でも野球場が縦に回るほどの大きさだが、5~7メガワットの洋上風車は倍以上。難易度は格段に高まる。
が、ここで威力を発揮するのが、事業本部間のシナジーだ。洋上風車のローターはボーイングの最新鋭機787の主翼(三菱重工が担当)の構造に似ており、航空宇宙事業本部の技術が活用できる。洋上での構造特性は船舶・海洋事業本部が応援する。「ここで負けたら恥。世界シェア10%は取りたい」(福江副社長)。
風車と並ぶ太陽光でも、狙うシェアは10%だ。シリコンの使用量の少ない薄膜系に照準を合わせ、諫早工場に続き新工場を計画中。原子力事業本部の真空プラズマ蒸着技術をベースに、薄膜製造装置の設計・製造を自社で行える。
もっとも、当面の生産目標は130メガワット程度。シャープの堺工場が最終的に掲げる1000メガワットには及びもつかない。こちらも、「電気系統に強い会社」とのアライアンスを模索することになる。
CO2の油田注入は油価130ドルで採算化
そして、最後は「CCS」だ。三菱重工はCCSで世界の最先頭集団にいる。技術の要は、CO2を吸着し、放出する際のエネルギー効率をいかに高めるか。三菱重工はCO2を吸着する改良型の「アミン溶剤」の特許を持ち、石油化学プラントからCO2を回収し、尿素肥料とするプロセスで6件の受注実績がある。
CO2の地中貯留については、北欧・米国などで大型実証プラントの商談が5件進行中。2~3年後に商用プラントの商談が始まるが、商用プラントは1件数百億~1000億円規模と見られる。
国内では、東電と東北電力が共同出資する常磐共同火力で「IG+CCS」の実験が計画されている。IGとは石炭ガス化。石炭を蒸し焼きにして水素H2と一酸化炭素COのガスにし、そこに水蒸気を反応させ“事前に”CO2を除去する(H2+CO+H2O=2H2+CO2)。燃やすのは水素ガスだけだから、“事後的に”CO2は発生しない。
が、何と言っても、ビジネスに直結するのは、EORだ。回収したCO2を油田に注入し、油層圧力を高めて、石油産出量を増加させる。ここでも三菱重工は5件の商談を進めている。一説に、CO2を1トン油田に注入すると3~5バレルの増産効果があるとされるが、三菱重工は「1バレル130ドルを超せば、EORは十分ペイする」と見る。「不謹慎な言い方だが、原油価格が上がれば上がるほど、ビジネスチャンスが大きくなる」(福江副社長)。
IGの応用で木屑などのバイオマスを蒸し焼きし、液体燃料にする技術も確立しているが、こちらも1バレル170ドルなら算盤に合う。
いつの日か、エネルギー産業が自動車産業の後を襲ったそのとき、すべてが上々の首尾に運べば、三菱重工が“低炭素社会のトヨタ”になっている可能性もないではない。
(週刊東洋経済)
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