環境先進企業の挑戦<3> 三菱重工−−品ぞろえはフルライン、目指せ低炭素のトヨタ
気がつけば、社内の至るところに宝の山がある。4月1日、三菱重工業は「エネルギー・環境事業統括戦略室」を旗揚げした。狙いは、各事業本部に散らばる宝の山=新エネルギー技術・CO2削減技術を束ね、新事業を練り上げること。戦略室のトップ、福江一郎副社長が言う。「新エネルギーの市場規模はすぐ10倍、20倍になる。10年後、20年後には新エネルギー・環境産業が、今の自動車産業の位置につく」。
低炭素社会の実現へインフラを作り直すとすれば、向こう20~30年間に、どれだけの新需要が出てくるか。三菱重工の試算によれば、CO2を排出しない原子力発電は、新たに国内で20~40基必要で、これだけで最低10兆円。風車(風力発電)は日本全国で50ギガワット、太陽光発電を100ギガワット拡大させるとすれば、それぞれ10兆円、20兆円の投資が必要になる。さらに、既存の火力発電の更新・効率化、CCS(CO2の回収・貯留)には、これも各10兆、20兆円の投資額。「毎年、GDPの最低1%を使わなければ間に合わない。GDP500兆円として5兆円。ドイツはすでにその域に達している。世界市場の規模はその10倍。簡単に(自動車産業を)追い抜きますよ」(福江副社長)。
経済産業省が低炭素化・効率化のためのキー技術として選定した「革新技術21」。2、3を除き、21の技術の大半に三菱重工が関与している。それもそのはず。「革新技術21」の選定自体、三菱重工の進言が一つのベースになっている。いわば三菱重工は経産省“公認”の「低炭素化・効率化のデパート」である。
世界初の1700℃風車で社内シナジー
盛りだくさんの“品ぞろえ”。いったい、何から先に手をつけるか。三菱重工は「順序」を決めている。いの一番は、現在の稼ぎ頭=ガスタービンの効率化、そして原発である。
ガスタービンは天然ガスを燃やしタービンを回転させて電力を得る。熱効率向上のポイントは、いかに超高温でタービンを回転させるか。1500度を実現しているのは、三菱重工、GE、シーメンスの3社だけだが、三菱重工は1600度を中間目標とし、1700度のタービンを「2~3年のうちに売り出す」メドをつけた。むろん、これは世界初だ。
1700度が実現すれば、熱効率は現在の60%から62%、将来的には70%に改善する。たかが2%、ではない。高度成長期に設置した火力発電所がそろそろ更新期に入る。これを超高温ガスタービンに置き換え、その比率を30%に高めれば、それだけで日本の年間CO2の排出量は約3%減少することになる。
一方の原発については、三菱重工は満を持した布陣を取っている。PWR(加圧水型原子炉)の“元祖”ウエスチングハウスの買収戦で東芝に敗れたとはいえ、国内のPWRはすべて自分の手で建造してきた。
その実績を背景に海外進出が本格化する。すでに大型PWR(170万キロワット)2基を米国から受注。中型PWR(110万期キロワット)はフランスのアレバ社と共同開発し、南アフリカ向けに小型高温ガス炉(17万キロワット)を24基建設する計画もある。
大型炉から小型炉までフルラインの品ぞろえは他に例がない。三菱重工の原発の年間売り上げは現状の2000億円から10年後、3倍の6000億円へ拡大させる方針。
既存エネルギーのガスタービン、原発の「次」に控えるのは、自然エネルギーだ。世界的な新規発電設備の投資予測によれば、現時点では、風車の投資額は火力発電やガスタービンを大きく下回っているが、2013年には風車が火力・ガスタービンと交差し、それ以降は、風車がぐんぐん水をあけるカーブになる。