過熱する排出権争奪戦−−温暖化ガス削減ビジネスの実態
さまざまな主体が手掛けるCDMだが、その成果が「排出権」として市場価値を認められるためには、国連での承認が必要だ。そのためには多くのハードルを越えなければならない(図参照)。
しかも、そのハードルが、最近はどんどん高くなっている。「かつてはプロジェクト設計書を公示してから、国連登録まで平均210日くらいだったのが、最近は420日まで延びた」(三菱商事・理事・慶田一郎排出権事業ユニットマネージャー)。
認可の遅れで倒産発生 人材争奪戦も激化
欧州のCDM開発業者の中には、排出権の認可が遅れた結果、資金繰りに窮して倒産した企業も。そうした企業を米系の投資銀行が買収する動きも出てきている。
途上国のパートナーと事業計画をつめ、国連指定の第三者認定機関(DOE)に持ち込み、その承認を得た後に国連の承認を得るのだが、最近は入り口であるDOEの審査が人手不足で停滞ぎみだという。「CDMを認証できる人材は、自分でCDMプロジェクトをつくることもできる。排出権ビジネスへの参入を狙う米国の投資銀行に人材がヘッドハントされてしまい、どこも人繰りが苦しい。北欧のあるDOEなどは、社員の勤続年数が1年3カ月しかないと聞いている」(総合商社の担当者)。
悪いことに、国連の承認も難しさを増している。
昨年10月には三井物産と東京電力が個別に国連へ申請していたプロジェクトが却下された。三井物産はホンジュラスのサトウキビの絞りかすを燃料として使用する発電事業3件から排出権の購入を決めた。うち1件は昨年6月に国連に承認された。残りの2件も同じ手法で国連登録申請手続きを進めていたが、「排出削減の計算方法が適当ではないと指摘された。第三者認定機関の事前承認は取れていたが……。違う手法で申請をし直す予定」と三井物産の排出権プロジェクト室稲室昌也室長は悔しさをあらわにする。
国連CDM理事会は10人の理事と10人の理事代理で構成されており、案件に20人中3人が異議を唱えると見直しになる。審査基準自体が厳しくなっているという指摘もあるが、関係者からは「理事の属人的な問題も大きく、判断基準に一貫性がない。ライバル国が関与する案件に異議を唱えるといった国際政治そのもの」と感想も聞かれる。
このプロセスを乗り越え、プロジェクトが国連に登録されても、まだ油断はできない。カネと時間をかけた割に、当初想定したほど排出権が認められないケースもあるのだ。
排出権が正式に発行されるにはCDMプロジェクトが稼働を開始し、一定期間状況をモニタリングした後、認定機関による排出削減量の検証を受けねばならない。フロン破壊のような化学系の案件なら、実際の排出量削減はほぼ計画どおり。だが、「風力発電は風任せ。水力発電は降水量に、ガス処理もランドフィルガスだと廃棄物の中身によって排出権も左右される。実際に排出権を出せるかが重要になる」(三井物産・稲室室長)。ふたを開けてみないとわからない案件もたくさんあり、開発業者のリスクはそれだけ高くなる。