イメージトレーニングについても、浅尾は一般的な方法と異なる。多くの者は、プラスのストーリーを思い浮かべるだろう。例えば前半戦までにセ・リーグ最多の10勝を飾った新人・小川泰弘(ヤクルト)は、登板前日に相手打線との対戦をシミュレートするが、その結果は9者連続三振のように完璧に抑え込むものだという。「三振を取るイメージができれば、打ち取れる」からだ。
一方、浅尾は“マイナス思考”にふける。
「『このバッターにはヒットを打たれて、バントで送られて』という状況を頭に置いておきます。そうすると、実際のマウンドで冷静になれるんですよ。『このバッターにフォアボールを出しても、まだこの状況だから』と頭に入れておきますね、つねに」
グラウンドに一歩足を踏み入れると冷静になるものの、ベンチにいる間は「足が震えるくらいに緊張している」。ストレスのかかる仕事ほどリラックスして向かったほうが成功しそうだが、そうではないと浅尾は言い切る。その考え方は今季、通算350セーブの日本記録を打ち立てた大先輩の岩瀬仁紀と共通するものだ。
「岩瀬さんも『緊張しなくなったら終わり』と言っていました。絶対、緊張は必要だと思います。緊張しない日もあるんですよ。そういう日はだいたい、打たれます。どこかに隙があるのでしょうね。油断で痛い思いはいっぱいしています」
要は、いかにストレスフルな仕事と向き合い、万全の準備をしておくということだ。リスクを想定しておけば、難しい状況が訪れても対処法を考え出すことができる。
内容より結果
リリーフ投手として絶対的な地位を確立した3年前の2010年。浅尾の思考法は大きく変わった。内容ではなく、結果を重視するようになった。
きっかけは、試合中にチームメイトの投球を見ていたことだ。岩瀬や現在47歳の山本昌、エースの吉見一起は浅尾のようなスピードボールを投げるわけではないが、相手打者を巧みに打ち取っていた。
「球速150km以上の自分が打たれるのに、山本昌さんや岩瀬さん、吉見は『どうやって抑えるのだろう?』と見ていたんです。そのとき、コントロールや配球を見て学びました。156kmのストレートで打たれるなら、147kmのストレートで抑えるほうが絶対にいいですよね? プロで生き残っていくためには、抑えていかないといけない。スピードだけではないと気づきました」
思考の転換を行ったことで、浅尾は球界最高の守護神に登り詰めた。中日が勝利する中に、必ずと言っていいほど浅尾の姿があった。
「毎日試合にかかわって、特に自分の投げた試合で勝てたらうれしいですね。本当に、小さい積み重ねが楽しくて、楽しくてという感じです」
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