英メディアのポピュリズム批判は生ぬるい トランブと戦い続ける米メディアと雲泥の差

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トランプ氏はメディアにも宣戦布告した。首席戦略官のスティーブン・バノン氏はメディアを「野党」と呼ぶ。トランプ氏は、政権や政策に関する否定的で批判的な報道はすベて「うそのニュース」で、ジャーナリストは「地球上で最も不誠実な人間の類い」だと主張。トランプ氏支持者は集会で、記者をリンチにかける意志を示すかのように「ロープ、木、ジャーナリスト」と書かれたTシャツを着用している。

こうしたやり方はトランプ氏だけではない。ポーランドとハンガリーの政府は、メディアによる当局者への取材を制限するなどして、報道の自由を脅かすようになった。権威主義的および準権威主義的な制度の下では、メディアは常に抑圧の対象ではないにしても、当局にとって脅威だとみなされるのだ。

だが、米国のメディアはトランプ氏に屈していない。実際のところ、ルパート・マードック氏率いるFOXニュースなどを除けば、プレスの多くは自由を支える機関や価値を擁護し続けている。彼らは、健全で機能する民主主義には、知識や真理などを尊重する市民の対話が不可欠だとの信念を持ち続けている。

ジャーナリストは真実の追求を続ける職務を全うせねばならない。アウシュビッツ強制収容所から生還したイタリアの作家プリーモ・レーヴィ氏が反ファシズムの立場を貫き通したように、今日のジャーナリストは執拗な政治的攻撃を耐え忍ばなければならない。

英国メディアの惨状、極まれり

この点で、英国のジャーナリストは、米国の仲間から多くのことを学ぶ必要がある。国民投票でEU離脱派が勝利して以降、英国のマスコミの大半が時流に流されずに民主主義のために戦い続けてきたかどうかについては、大いに疑問だ。

一方で、米国のFOXニュースと同様、減ったとはいえ依然として400万部を超える発行部数を持つタブロイド紙は、ポピュリストが振りまく偏見を擁護してきた。敗れたとはいえ投票者の48%もがEU残留を支持した事実は忘れられがちだ。

英国のポピュリスト寄りメディアは、法の支配を荒らしている。英国政府は正当な法的手続きに沿ってEU離脱を進めるべきだと主張した最高裁判事の一人を「国民の敵」だと非難した。この言葉はトランプ氏自身も最近、米国のメディアを批判する際にツイッターで使った。

メディアはこうした批判を、市民社会をポピュリズムから守るため努力している証しとして、誇りに思うべきだ。しかし、残念ながら英国では、報道機関が民主主義の健康と活力を支えることを長く怠ってきたため、先行きはあまり明るくはなさそうだ。

クリス・パッテン 英オックスフォード大学名誉総長

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Chris Patten

元英国保守党議員で最後の香港総督。欧州委員会外交専門部会委員、英オックスフォード大学総長を歴任。

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