ドナルド・トランプ米大統領は、複雑な米国の民主主義システムの中心に位置する「スーパーハブ」のような存在である。システム全体を制御することまではできないが、その影響力が強すぎるゆえに、逆に息の根を止められてしまうかもしれない。
複雑なシステムは簡単にはダウンしないが、サーキットブレーカー(回路遮断機)が利かなくなると、最終的には自己崩壊してしまう。そんなことが起こるかわからないが、最悪の状況は想定しておいたほうがよい。
発足からたった1カ月で、トランプ政権は有権者の感覚を麻痺させて注意をそらす戦略を展開。その政権運営は不条理に満ちている。首席戦略官・上級顧問のスティーブン・バノン氏は2014年の演説で、ファシストだったイタリアの哲学者ユリウス・エヴォラ氏の「システムを変えるというのは、すべてを爆破することだ」という主張を引用した。
「分裂と征服」のゆくえ
トランプ氏の戦略は、「分裂と征服」を進めることだとも言えるだろう。そのうち「分裂」の部分は、同氏が選挙戦を開始して以来、順調に進行している。
そして「征服」の方は、民主主義の制度的基盤を解体することで可能となる。トランプ氏は、彼に責任を負わせようとした米国の司法やメディアを排撃しようとしている。排撃対象は国際連合やNATO(北大西洋条約機構)、EU(欧州連合)にまで広がっている。
今後、トランプ大統領が米国の憲法や最高裁の判決に従うかは不明である。公然と裁判所の決定を無視すればどうなるか。シカゴでの銃犯罪への対処として連邦捜査官を介入させる構えを見せたことからすれば、戒厳令を発することもありうる。
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