アメリカの起業家精神はこうして育まれた レモネード・スタンド、民間の危機意識、政府の目覚めという話

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しだいに新興ビジネス支援に目覚める政府

経済史の専門家アミティ・シュレーズによれば、残念ながら当初は邪魔者にすぎなかったようです。

たとえば、ARDは株式を公開していたため、証券取引委員会(SEC)の規制を受けていました。その結果、ARDが新興ビジネスに追加的な資本を投じようとすることは難しく、またドリオ教授が推し進めていた投資先企業のストックオプションをARDの社員が保有することに反対し続けたといいます。

しかしその後アメリカ政府も、しだいに新興ビジネスに対する支援に目覚めていきました。シュレーズによれば、1957年のソビエト連邦によるスプートニク打ち上げ成功のニュースは、アメリカ政府による中小企業向け融資制度の創設に結び付きました。

さらに1970年代末には、ベンチャーキャピタルの市場が大きく拡大する法制度の改正が相次ぎました。1978年のキャピタルゲイン減税、1979年の年金基金の運用に関する規制の緩和、そして1980年のバイ=ドール法の成立です。

技術革新はアメリカの文化に

キャピタルゲイン減税は投資家の投資意欲を高める措置でしたし、規制緩和によって年金基金がベンチャーキャピタルへの投資を行っているプライベート・エクイティ・ファンドと呼ばれる分野に投資することができるようになりました。

またバイ=ドール法では、大学や中小企業、非営利法人が連邦政府の助成を受けて開発した成果について、研究を行った機関が特許などの知的財産権を所有できることとし、他へのライセンス付与も認めることになりました。それまで活用されにくかった政府支援を受けた技術的成果の商用化の道が開かれたのです。

シュレーズによれば、これらによってベンチャーキャピタルの活動が劇的に増加しました。ベンチャーキャピタルによる支援件数は、1970年代前半の847件から、70年代後半には1253件、1980年代前半には5365件に膨らんだのです。

起業家精神旺盛な人材や、新興ビジネスに投資をしたいと思っているお金持ちがいても、それだけでは新産業や雇用は生まれてきません。それを結び付けようとする産官学の仕組みがあって初めて、「技術革新という全般的な文化」(シュレーズ)が促進される。そういうことが、アメリカの事例から理解できるのではないかと思います。

 

今回は、アメリカ経済の強さを象徴する「起業家精神」と、そのアイデア実現の具体的な方法について考えました。アメリカの成長基盤について、さらに詳しいお話は、『やっぱりアメリカ経済を学びなさい』 第4章に以下の通り。

アメリカは何を作っているのか?
 (貿易赤字でも「輸出大国」、天然資源の驚くべき埋蔵量、IT・航空という輸出産業の顔、巨大なヘルスケア市場、海外資産が生み出す巨額の収益 等)
起業する意思と再生する力
 (敗者復活のチャンスをチャプター・イレブンが支える、始まりは鉄道バブルの崩壊、バブルが崩壊したら個人を救済すべきなのか?、特別な株式会社「Sコープ」、インターネットと「クラウド・ファンディング」 等)
アメリカ衰退からの復活「製造業のルネサンス」
 (リショアリング―製造拠点を海外から国内へ、「地域性」の時代、シェール革命でエネルギー事情が変わる、シェール革命の恩恵 等)

等々を取り扱っています。さらに深く学びたい方はぜひご参照ください。

 

 

小野 亮 みずほリサーチ&テクノロジーズ プリンシパル

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おの まこと / Makoto Ono

1990年東京大学工学部卒、富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社。1998年10月から2003年2月までニューヨーク事務所駐在。帰国後、経済調査部。2008年4月から市場調査部で米国経済・金融政策を担当後、欧米経済・金融総括。2021年4月より調査部プリンシパル。FRB(米国連邦準備制度理事会)ウォッチャーとして知られる。

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安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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