キリンのビールが売れなくなった本当の理由 海外強化の陰で「犠牲」になった国内シェア
豪州事業も盤石とはいいがたい。酒類部門こそ営業利益率25.8%を誇るが、飲料は牛乳などの低価格競争で利益率が4%程度にとどまる。
結果、売上高は海外投資を加速した2007年の1.8兆円から2016年に2.07兆円まで増えたが、営業利益率は6.7%からわずか0.1ポイントの伸びにとどまる。1兆円超の投資のリターンとしては、あまりにも不十分だ。
国内ビールをどう立て直すのか
課題は国内にも山積している。飲料子会社のキリンビバレッジは、リニューアルした「生茶」の販売数量増や会計方法変更による償却費用減などで、1.5%だった営業利益率が2016年に4.9%に急回復したものの、シェアは4位にとどまり上位メーカーの背中は遠い。
米コカ・コーラ本社との資本提携は破談に終わったが、国内のコカ・コーラ製造販売会社との業務提携に向けた協議は続ける方針だ。
キリンHDの磯崎功典社長は「自社だけの取り組みでこれ以上の収益性を実現するのは難しい。物流や製造などの面で、他社との提携を模索し続ける」と語り、アサヒ飲料や伊藤園など、グループを超えた複数社との提携の可能性もにおわせる。
だが、飲料事業のテコ入れ以上に急ぐべきなのは、国内ビール事業の復活だろう。磯崎社長は就任直後の2015年に、広告・販促投資を1000億円近い水準に回復させた。一番搾りブランドに投資を集中させたことで、販売数量が前年比で4.2%伸び、6年ぶりにシェアが改善した。
2016年も投資水準を維持したが、新ジャンル(第三のビール)でアサヒに競り負け、再びシェアが下落している。
2017年は冒頭のノンアルや新ジャンルの強化に加え、一番搾りブランドのテコ入れを継続する計画だ。
痛手を被った海外では、ベトナム政府が国営ビール大手の売却を表明。海外で残された「最後の大型案件」ともいわれ、多くのビール会社が興味を示す。買収金額は2000億円にも達する見込みで、磯崎社長も「たいへん魅力的な案件」と意気込む。
はたしてブラジルの蹉跌をものともせず、再び買収に踏み切るのか。それとも今は身を縮め、国内の基盤強化に専念するのか。磯崎社長は重い判断を迫られている。
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